CSはスカパーなる一企業が独占的に放送する有料放送だ(過去にあった競合企業は全て淘汰され消滅した)。独占は別に良い。問題は、そのサーヴィスを実施する企業は一つでも、そこで放送される番組は、複数の企業によって提供される事だ。
スカパーは、衛星を使用して電波を流す主体の企業だ。そのスカパーのサーヴィスを利用して、複数の会社が番組を提供する。アニマックスやキッズステーション、AT-X、そんな会社が別のチャンネルを「スカパーの中」に持ち、番組を流す。
膨大な数のチャンネルが「同じスカパー」にある。
ところで、これらのチャンネルの番組を見るには、視聴者はスカパーと契約を結ばなければならない。あるいは、スカパーを利用するそれぞれのチャンネルの運営者と契約を結ばなければならない。もちろん、スカパーと直接でなく、スカパーの電波を再送信するケーブルテレビと契約する場合もある。
アナログのCSもさうだが、特に問題になるのは、デジタルのCS放送だ。CSでは契約がデコーダ単位になる。
視聴者がスカパーの番組をデジタルの放送で観たいとする。その時、アンテナを設置し、テレビを繋ぐだけでは駄目だ。デコーダを内蔵するテレビでも、プロモーションチャンネルしか映らない。
視聴者は、スカパーと契約を結んで、デコーダでスカパーのチャンネルを見られる様にしなければならない。その時、いろいろな詰合せセットがあるからそれを選べば複数のチャンネルを見る権利が得られる。オプションチャンネルは別途契約すれば見られる。
ところが、CSのデコーダは、複数のチャンネルの中から、視聴者が選んだ一つのチャンネルをしか映し出さない。
沢山あるチャンネルの中から、視聴者は「見たい番組」を一つ、選択する必要がある。その選んだチャンネルだけを、デコーダはデコードして映し出す。何んなに沢山のチャンネルを見られる様に契約をしても、デコーダが一度にデコードできるのは一つのチャンネルだけである。
視聴者の観たい番組が、複数のチャンネルで同時に放映される事もあり得る。ところが、デコーダは一つのチャンネルだけを選ぶ様、視聴者に要求する。
地上アナログ放送の場合、チューナが載ったテレビなら、どれでも自由に視聴ができる。テレビばかりではない、ビデオデッキやデジタルレコーダでも、「見る」事ができる――録画である。見たい番組が重なった――ならばビデオデッキで録画しておけばよい。地上アナログ放送ならば、簡単な話である。(今は話を簡単にするため、敢て「録画」に関する問題は考慮しない)。
BSアナログでも、一時期までチューナの載らない機械が多かった事で問題は生じた物だが、現在は多くのビデオデッキ・デジタルレコーダにチューナが載るため、比較的問題は少くなった。
しかし、CSの場合、問題は解決不可能である。契約の都合でデコーダ単位で契約が課せられるため、レコーダにただデコーダを載せるだけでは問題が解決しないのである。視聴したい番組があって、その「裏」の番組を録画したければ、その録画をする機械で別途、契約を結ばなければならない。ところが、そんなにお金を払っても良いと言ってくれる視聴者が、どれだけ存在するのか。
チャンネルが大量にあり、しかし一度にデコーダがデコードできる番組が一つである事は、全てのCSの関係者が承知の事である。だから、彼等は同じ番組を何度も放送して、視聴者に視聴の機会を得られる様にする。
けれども、それは何の解決にもならない。なぜなら、視聴者は、見たい番組を何とか全部見ようとすれば、あらかじめ計画を立て、ローテーションを組んで、視聴しなければならないからである。これは大変面倒な事だ。その面倒な事を「やれ」とCSのシステムは視聴者に要求するのである。
繰返すが「録画」の問題は、今ここでは詳述しない。しかし、「予約」をできない老人が存在する事を考慮すれば、録画は「難しい」ものだと言って良い。その難しい録画が、CSではさらに難しくなる。
CSのデコーダを搭載しない機械では、デコーダの載ったテレビやチューナから音声と映像の信号を取出して録画するしかない。この接続はそれ自体面倒だが、ちゃんと繋がったのか何うか、それは、見てみなければ判らない。
しかも、現在のCSの放送、デジタルの放送ではコピーワンスの制限が最低でも附いてくる。録画機によっては録画ができない場合がある。録画できてもデータを保存するのに苦労する事になる。
また、地上波の放送よりも放送事業者の企業の規模が小さい事もあって、CSでは「放送事故」が極めて多い。有料放送のAT-Xですら、音声や映像にノイズが乗った、番組の冒頭や末尾が欠けた、間違ったコンテンツを放送した――と、そんな「事故」が日常茶飯事の様に起る。
AT-Xではそんな時、ウェブサイトで告知して再放送をするのだが、視聴者は日常的にウェブサイトの「事故情報」をチェックしなければ、その種の「事故」に気附かない事があり得る。AT-Xの様なチャンネルの場合、視聴者は番組を保存する事を目的に契約を結ぶ。だから日頃、録画だけして視聴をしないケースも多い訣だ。そして後日、録画した番組を、DVD-RAM等に保存しようとして、内容をチェックしてみて、それでエラーに気附く事も「ある」。AT-Xでの再放送は既に済んでしまった――そんな事もあり得る。その時、視聴者は、高い金を払って契約したのに、番組をロストしてしまった訣である。
CSデジタル放送の重大な問題は、この四点にある。
全て「有料」にした所為であるが、「無料」にすれば解決する問題でもないし、そもそも「無料」にはできない。
そもそも本質的に「放送」の形態でサーヴィスをやるのが問題の元凶である訣だが、「放送」は「なければならない」と信ずる人々の所為で、今の問題だらけの有料CSデジタル放送は当面、なくならない。
視聴者はいらいらしながら、高い金を払って、低レヴェルのサーヴィスを何とか利用して行かねばならない。非道い話である。