制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
初出
「闇黒日記」2000-11-23
公開
2001-06-20
改訂
2004-07-19

ソフトウェアの在庫と税金

解散となつた出版社ペヨトル工房のサイトに、出版社經營・運營の實態を赤裸々に綴つた解散日記と云ふコンテンツがある。そこに描かれてゐる通り、出版社が、雜誌のバックナンバーを賣つたり、書籍の在庫を賣つたりして經營を續けていくのは、昨今極めて難しい状況にある。

一方で、コンピュータのソフトメーカも、屡々在庫のせゐで經營が困難となる。ソフトメーカが在庫で經營を維持する事が本質的に出來ない事は、どなたにもおわかりになるだらう。OSがヴァージョンアップする度に、PC向ソフトメーカの在庫は全て屑になる。しかし、その「屑」にも税金がかかる、と云ふ事實を、どれだけのユーザが御存じだらうか。

再販制度の問題よりも、税制の方が、實は重大な問題である。書籍にしろ、ソフトウェアにしろ、企業の經營を壓迫するのは日本の税制である。


PC用ソフトは全て賣り切りだが、書籍は大半が委託である。ソフトをショップや量販店は安賣りするが、書籍を書店は安賣りしない。書籍の再販制に關する問題で、話題になるのは常に委託と定價販賣の問題である。しかし、書籍の出版に於る問題は、それだけではない。

日本國の税制では、在庫は全て出版社・メーカの資産として扱はれ、税金(資産税)をかけられる。在庫を持つてゐれば税金を取られ、賣れば再び持つて行かれる。國は出版社やソフトメーカから税金の二重取りをやつてゐると言へる。

この税制には拔け穴がある。税金は商品にかかるが、部材にはかからない。だからソフトメーカは商品を部材で持ち、在庫が切れた時點でアセンブルして卸す。一方、書籍の出版社は從來、さう云ふ眞似をやらなかつた。書籍は出版社からまづ本屋に行き、次に倉庫に行く。書籍の部材を倉庫に置いておくと云ふ事はなかつた。税金は取られ放題であつた。

これはオンデマンドの時代になつて、變るかも知れない。オンデマンドが主流になれば、版元在庫や店頭在庫がなくなり、在庫にかけられた税金を版元が拂ふ必要はなくなる。しかし、斯る「拔け穴」を出版社やメーカが使はなければならないやうに仕向けるのは、税制そのものに問題がある。國は税金を「ぼつたくり」過ぎである。


追記。税金は、商品を作つた時點でかかるのであり、商品が賣れた時點でかかるのではないのです。