制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2004-07-15
改訂
2005-05-20
附記
2006年秋現在、状況が變つてゐます。以下の記事は過去の或時點での状況について述べたものです。

J-COMのデジタル放送

アナログ地上波に比べて、デジタル放送はメリットが多いと言はれる。しかし、それは本當だらうか。

アナログ地上波の利點

アナログのVHF/UHFは、コピーコントロールがなされてゐない。基本的に、チューナさへ用意すれば、自由に觀られる。

NHKは、有料だが、世帶毎の課金であり、チューナ單位の課金ではない。民放は、當然ながら、觀放題である。

アンテナが一本でも、ケーブルの途中で分岐すれば、テレビ本體、ヴィデオデッキ、PCのTVチューナカード等々、それぞれで觀る事が出來る。

J-COMのケーブルテレビ

J-COMのケーブルテレビは、ホームターミナルが有償で貸與される。

アナログ地上波は、從來通り、幾らでも分岐して、通常のチューナを通して觀る事が出來る。しかし、デジタル放送は、さうは行かない。

デジタル放送は、地上波デジタル、BSデジタル、CSデジタルの三系統で放送されてゐる。その爲、膨大なチャンネルを觀る事が出來る、とされてゐる。だが、一世帶では、同時に一チャンネルしか觀る事が出來ない。デジタル放送は、ホームターミナルからヴィデオ出力で出力され、一度に一つのチャンネルしか選擇できないやうになつてゐる。

過去のものとなりつゝあつたチャンネル爭ひが、今、復活する――デジタル放送では、同時に別のチャンネルを觀られない。そればかりでなく、裏番組の録畫も出來ない。「アナログ地上波」と「デジタル放送の中の一つのチャンネル」とは別々に觀られるが、「デジタル放送のチャンネル」の間では、排他的に一チャンネルしか擇ぶ事が出來ない。

また、過去の機材を使用してゐる限り、デメリットは結構多い。ヴィデオ出力經由で觀る事になるデジタル放送は、過去の地上波用のTVでは、通常の民放とは異り、外部入力として映さなければならない。その爲、TVの(リモコン)操作とは別に、ホームターミナルの(リモコン)操作が必要となる。

さらに、デジタル放送の局の番組を録畫しようとすると、TVで外部入力に切替へ、ホームターミナルでチャンネルを合せてから、ヴィデオデッキなりDVDレコーダなりで録畫操作をしなければならない。新しい機器だと、設定が連動するものもあるが、メーカや機器の製造時期の違ひで、接続できないケースも今のところ多く、不便である。

豫約録畫の際も、録畫機材が古い場合、、豫約設定をホームターミナルと録畫機器とで個別に行ふ必要がある。新しい機材に替へれば、設定を連動させられる事もあるが、それでも仕組を良く理解しておく必要がある。取敢ず、古い機材が殘つてゐる現状、操作性が惡い状況は發生し易い。

デジタル放送の重大な問題として、コピーコントロールがなされてゐる事がある。デジタル放送の番組を録畫すると、CRPMにより一度しかコピーできないコピーワンスの「縛り」がデータに附けられる。コピーしても劣化しないと云ふデジタルデータの利點は、デジタル放送では殺されてゐる。取敢ず、多くのハイブリッドレコーダ(HDD+DVD)で、コピーワンスのデータは「移動」出來る、HDDからDVD-RAM/DVD-RWにデータを持つていける、と云ふ事になつてゐる。

しかし、そのDVD-RAM等は、CRPM非對應のPC環境等で再生できない。機材とソフトウェアのアップデートが必要となる。金ばかりがかかる。もちろん、私的な目的であつても、バックアップが取れない。

基本的に、コンテンツ提供者が録畫させたくないと考へて、録畫しづらいやうに作つてゐるのがデジタル放送である。デジタル放送の録畫がしにくい――と言ふよりも、デジタル放送が使ひづらく觀難い原因である。

J-COMのデジタル放送は、J-COMの局とデータのやりとりをする爲、ホームターミナルのリモコンで操作をしても、レスポンスが遲い。チャンネルの切換だけで待たされる。メニューの表示には一瞬、時間がかかる。豫約操作をして、元の畫面に戻つて來るのには、かなり時間がかかる。

EPGによる番組表の表示にも、時間がかかる。TVの畫面が狹いので、一覽性にも缺ける。リモコンに據るスクロールは、癖があり、不便である。

もつとも、これはデジタル放送の問題と言ふより、松下製のホームターミナルの問題かも知れない。

感想

觀られるチャンネル、觀られる番組が増える――撰擇肢が増える、と云ふ事は事實である。畫質が向上する、と云ふのも、事實ではある。しかし、撰擇肢は増えても選擇する手段が良くないから、利用しづらい。

松下製ホームターミナルのリモコンは、操作性が極めて惡い。野嵜は昨今「リモコンと言ふものの存在意義を再考すべき時期が來てゐる」とすら思つてゐるのだが、依然、家電メーカにはリモコン信仰があるらしい。とにかくリモコンにすれば便利になる、と考へてゐる馬鹿メーカは今でも「ある」のである。しかし、小さなリモコンに機能を凝縮するならするで、一貫した操作性を感じられるやう、開發者は工夫すべきである。チャンネルの番號は決つてゐるのに、松下製ホームターミナルのリモコンでは、チャンネル切換の前に「地上波デジタル」「BSデジタル」「CSデジタル」を押して放送系統を選擇し、それから局番を入れなければならない。かう云ふ非合理的な仕樣になつてゐるのは、解せない。(もつとも、BS/CSデジタル放送對應の東芝製TVのリモコンでも、松下製ホームターミナルのリモコンと同樣の操作性となつてゐる)

デジタル放送を使ふ上では、畫面上にメニューを表示して操作する必要が屡々出てくる。このメニューの作りも、まだまだ檢討の餘地がある。即ち、今のところ、出來が惡い。東芝のRDシリーズは、開發者本人が使つてゐるから極めて合理的に出來てゐる。J-COMのデジタル放送は――と言ふより、松下製ホームターミナルは――、恐らく開發者が實際に觀て利用しないのであらう、メニューが極めてわかりにくい。ダイアログのボタンの位置が出たら目である。「豫約」のボタンが、上にあつたり下にあつたり、一貫性がない。解像度が低いテレビ畫面である事も、使ひ難さを助長する要因であらうが、RDシリーズのやうに工夫された例もある。ユーザビリティには氣を遣つて貰ひたいものだ。

今のJ-COMのデジタル放送サーヴィスは、一人の人がその場で觀るだけ、と言ふのならば、問題なく利用できる。しかし、複數の人間がそれぞれ別の番組を觀たいとか、録畫をしたいとか、少しでも「高い」欲求を持つと、非常に使ひ難くなる。

正直言つて、今のデジタル放送には餘りにも魅力とメリットとがない。J-COMの場合、從來のケーブルテレビの概念に囚はれてゐる事、家電的な發想で扱つてゐる事が、デジタル放送を利用しづらくしてゐる。