制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2002-09-14
改訂
2005-07-02

ISO/IEC 15445:2000(ISO-HTML)の理念

ISO/IEC 15445:2000(ISO-HTML)は、最小限のマーク附けのされたあるHTML文書が、背後に階層構造を持つこと(制作者が、文書の構造を意識しつつ、その文書を作成したこと)を保証する規格です。

1 歴史的事情

もともとISO-HTMLは、文書構造を明示するXHTML 2.0に似たタイプの言語として開発が進められました。(当初はHTML 3.2を基にした議論がなされた)当初は、hxとそれに対応するbxとでセクションを表現する方法と、セクション構造を明示するsxを導入する方法とが検討されました。

しかし、HTML 4.0が勧告されると、ISO-HTMLをHTML 4.0のサブセットとして定義することを要求する声が大きくなりました。その結果、独自要素の創設を必要とするセクション構造の明示は、ISO/IEC 15445:2000では見送られました。

2 妥協としての仕様

「HTMLが文書構造を明示するものである以上、セクション構造の明示は必須である」と主張する人は、ISO-HTMLを非難します。

一方で、「セクション構造の明示」への強い反対意見が出た事も、歴史的事実です。この反対意見は、セクション構造を明示するべきだと主張する人々からは、保守的な意見とみなされるものです。

しかし、それだけに「セクション構造を明示しない事には重要な意義がある」と解釈する事も可能です。個人的には、「セクション構造を暗示するに留めた」あたりに興味を覚えます。

仕様を策定する中心メンバーの意嚮と、それをレヴューするメンバーとの、意見の対立と、妥協との産物が現在のISO-HTMLを作つたのですが、それだけに現行のISO-HTMLには妙に人間臭い部分があります。それは好ましいものだと感じます(この部分の感想は私見)。

HTML 4.0においてセクション構造を明示するための統一的な手段が存在しない問題が、ISO/IEC 15445:2000にPre-HTMLといった特殊な機構を導入する事を要請した理由です。XHTML 1.1まで、セクション構造の明示の問題に関して、決定的な解決策は未導入です。

3 互換性

セクション構造を明示しない現行のISO-HTMLにも、それなりにメリットはあります。

ISO-HTML準拠の文書は、非常にシンプルなものとなります。そして、同時にそのシンプルな記述のHTML文書は、見出しレヴェルに基く構造を持つ事が保証されます。

ISO-HTMLは、マーク附けの方法であるHTMLの本質を維持しつつ、実際に生成されるHTML文書の内容を拡張するものです。あるいは、「HTML文書自体は変更せず、文書の解釈を変更する事で、文書の意義を拡張する」ものです。

XHTML文書や、table、fontなどに依存した見た目重視のオーサリングのなされたウェブ文書と、本来のシンプルな構造のHTML文書との間には、断絶があります。ISO-HTMLは、そのシンプルな構造のHTML文書を、ある意味、再評価するものです。

4 まとめ

ISO-HTMLは、既存のシステムとの互換性を考慮した上で策定された仕様です。飽くまで既存のシステムで利用できるHTML文書の仕様であり、XHTMLの様な新技術を導入した上で利用されるべき仕様とは異ります。形の上で、セクション構造を復元して利用するシステムでの利用も可能ですが、ISOあるいはJISの性格から言って、ISO/IEC 15445:2000はオーサリング工程の標準化を目的とした仕様だと見るべきです。

2000年以前、XHTMLの仕様は発展途上にあり、必ずしも確定したものではありませんでした。そのため、ISO/IEC 15445:2000はSGMLベースであるわけです。XHTMLやXMLを利用する環境が未整備の時期に作られた仕様であり、ISO/IEC 15445:2000は規格として、現在では、やや「古い」面があります。

XMLベースで運用し、最終的に生成するHTML文書がXHTML準拠となるシステムは、既に存在します。ISO/IEC 15445:2000はそれをSGMLベースで実現するための規格ですが、単に「XML以前の規格」であるだけであり、「XMLに対抗するSGMLの規格」であるわけではありません。実装は「古い」とも評し得ますが、理念の面では必ずしも「古い」と言ってよいものでもなく、ここに紹介した次第です。