手毬寿司

 北陸はまだまだ寒い日が続いていますが、もう、お雛様の時節。雛祭りのお料理というと、この表紙では、毎年散らし寿司なので、今回はちょっと趣向を変えて手毬寿司にして見ました。…大した違いでもないですね。

 お鮨屋さんのような、握りは難しいけれど、丸めることは簡単です。

 染付のお皿は銘桃花源です。桃の花の咲く無可有郷から水も桃色に染まるほど花を浮かべて流れ出している川。木の葉のお舟に乗った手毬寿司が桃源郷を目指しているところです。眺めている猫雛さんたちは売れ残り組です(カワイソ)。
 右側奥の、染付桜文様の小鉢にはごく当たり前の春菊白和えですが、ピンクと白のはんぺんを散らしてちょっとだけお雛様気分を添えたつもり。左側の小皿は赤絵の桜。もう花咲く春が待ち遠しくて、器だけでも桃やら桜やらあれこれ出して遊んでみました。

 写真では切れてしまいましたが、一輪挿しに桃の枝を生けています。日本に自生していた桜と違い、桃もやはり大陸から伝来したものだそうです。桃の花といえばまず思い浮かぶ大伴家持の歌に、

 春の苑紅匂ふ桃の花下照る道に出で立つ乙女 

と歌われた少女も、初々しさと同時に流行の最先端をいく、万葉時代のモダン・ガールだったのでしょうね。

 だれでもご存知のことと思いますが、「桃花源の記」は晋の陶淵明の書いたもの。武陵の漁師が道に迷って桃の花の咲く川を遡ってゆくとやがて世の中と隔絶した別天地にでた。そこは豊かで平和で、住む人々は大昔のことしか知らなかった。もういちどその桃源郷に行こうとしたが道は見つからなかった。というお話。
 山の奥に桃源郷があるというイメージはなぜだか懐かしいような憧れを感じさせます。その地に花咲いているのがなぜ、梅ではなく桃だったのかはおもしろい問題ですが、おそらく桃が女神西王母の象徴的持ち物だからでしょうね。

 それにしても、桜はあっても梅も桃もない春なんて寂しかったろうな。今は世界中の花が楽しめてうれしいこどですね。

 春待ちて器に咲かす花いろいろ  おるか

2013年3月1日