加賀蓮根

 

 蓮根を掘るのは、冬がおおいようですが、加賀蓮根は晩夏から、今頃が旬です。掘りたての蓮根は、そのままサラダで食べられるんですよ。

 写真の手前、工房あめつちさんの平鉢に、蓮根と鶏肉、お豆のクリーム煮です。口当たりのやわらかな食材の中で蓮根のシャキシャキ感が際立つ感じです。
 右側は、拙作色絵染付の夕照帰帆図皿です。蓮根といえば酢蓮。酢蓮と胡瓜赤ピーマンの酢の物。奥の赤絵金彩鉢には筑前煮です。
 朝夕はそこはかとなく秋の気配を感じるこの頃です。箸置きは薄紅葉にしてみました。、

 蓮根は大好きなんです。味は勿論ですが、風通しのいい形にひかれているのかなぁ。結局、見た目重視なんですかね。
 でも目で食べるのが日本の伝統ですからね。一口づつ味わって食べるとすぐ満腹になりますし。

 ホメロス「オデュッセイア」に、蓮食い人の島の話がありますね。その島の蓮をたべると、この世の憂さを忘れて、恍惚として蓮だけ食べ続けて暮らすことになるのだそうで、「オデッセイアの冒険」の、他の島々がかなり剣呑なのに比べて、極端に平和的です。憬れますね、そんな島。

 もっとも、その島の住人の食べるのは蓮の種のようで、それで、蓮というより芥子の類ではないか、などと詮索する向きもあるようです。しかし、詩篇にえがかれたことが実際に合っているかどうかと分析しても、あまり面白くないですね。花の美しさを表現するのに、肥料の配合を書き出すみたい。

 蓮はインド原産だそうですが、ヒンドゥーの神々にも仏教の仏様たちにとっても、蓮は特権的な植物のようです。
 仏教の明王、菩薩も、はじめはオリエントの豊穣の女神のように石榴をもっていたものもありました。やがて、果物→玉、宝珠へ、そして蓮の莟、蓮華へと収斂してゆきます。女性的なるものに求めるのが、豊穣性・多産性から美へと変化してゆくのを象徴しているのでしょうか。

 おやおや、蓮根を食べながら蓮についてあれこれ思って時を過ごしてしまいました。私もすでにロータス・イーターの一員になっているようです。

 

 風抜けてさみし渾沌も蓮根も  おるか

 

2012年9月3日