牡蠣よ牡蠣

 

 

北陸独特の冬の雷、鰤おこしが轟く時節になりました。

 この季節美味しくなるのは鰤ばかりではありません。今までも甘海老、越前蟹、耳蛸などなど取り上げてきましたが、忘れてはならないものに、能登の牡蠣があります。能登では「牡蠣祭り」も行なわれるそうですね。

 牡蠣はローマ人も好んでたべていたとか。ローマ時代の牡蠣好きの詩人の手紙を読んだことがあって、その人物の名前さえ忘れてしまったのに、朝食に食べる牡蠣の量の多さに驚いたことだけが記憶に残っています。取り寄せるの大変だったでしょうにね。

 わが国でも牡蠣は 古来このまれていたらしく、古事記にも牡蠣の歌があります。

 

 夏草のあひねの浜の蠣貝に足踏ますなあかしてとほれ

という衣通姫の歌です。衣を通して光り輝いたという絶世の美女衣通姫のうたとしては、この蠣の歌と二首ならんで載せられている歌が

 

君が往き 日(け)長くなりぬ 山たづの 迎へを行かむ 待つには待たじ

という絶唱なので、そちらばかり有名ですが、蠣の歌も微笑ましいですよね。

「国訳本草綱目」や「本草綱目啓蒙」などによると牡蠣は「肌をきめ細やかにし、顔色をうるわしくする」とあります。衣通姫の美貌も牡蠣ではぐくまれたのでしょうか。それとも牡蠣の美容効果を知っていた古事記の編者が、そぼくな民謡をそこにすべりこませたのでしょうか。

 ともあれ牡蠣はおいしい。写真は水菜といっしょに牡蠣鍋。

ひょうたん型の豆皿にひところ流行った「食べるラー油」を出してみました。ちょっとつけるといけます。取り皿には茄子形小向付。
雪 達磨蕎麦猪口には生牡蠣おろし合え。お酢のかわりに柚子をしぼってかけています。赤い色どりにちょっとパプリカ。

そして、少しはやいけど来年の干支ウサギ箸置きです。

 

  強ひ語り牡蠣鍋に風つのる夜を  おるか

 

2010年12月3日