実りの秋

 

 残暑厳しい日々ですが、朝夕はすずしくなって着ました。なにより山道を吹きぬける風が秋です。
 はらはら木の葉も降ってきます。普通に秋の落葉というのではなくあまりにも暑いので、葉が枯れてしまっているようです。それも植物の暑さへの抵抗の一つなのでしょう。

 果物もこの記録的な猛暑で、実が落ちてしまったり、なにかと大変なようですが、農家の方々は努力して見事な実を結ばせています。

 葡萄は秩父からとどきました。黒葡萄というのでしょうか、素晴らしい色です。染付けの鉢に盛って、しばらく鑑賞してからいただきました。芳醇で底に複雑な渋さを秘めた深い味わいです。気がつくと葡萄の香りが部屋いっぱいにたちこめていました。

 加賀野菜はかなり有名になりましたが果物はそれほどしられていませんね。でも加賀梨がそろそろ最盛期ですし、キウイもよく作られています。加賀市内ではイチジクも。果物好きには嬉しい季節の到来です。

 右奥の手付き鉢に乗っているのは世界のパティシエ辻口博啓のフルーツ・ケーキです。手付き鉢は使い方がむずかしいとおっしゃるかたもいらっしゃいますが、お茶席の菓子鉢や八寸のかわりにもよく、どかっと果物など入れてテーブルの真ん中に置いてもなんとなく絵になるし、けっこう便利なものです。左の飯碗には金のウサギが跳ねています。一個しかないので使わず写真を撮りました。
 いつも写真で使用している器は、自分で使っているものですが、葡萄の入った染付け鉢、手付鉢、芙蓉手大鉢など大きい入れ物が欲しくて完品を使っております。

 そんなわけで私の普段の食事は試作品と失敗作で摂っておりますので、食卓の上は淋しい秋の風が吹き通る気分になるのでした。たとえば,この句のように。

 秋風や模様のちがふ皿二つ 原 石鼎

うう、わびしいですね。流寓の気分が、ひたっと胸に迫る。器に趣味のない人には分からないでしょう。石鼎はおそらく、以前はよい什器で食事していた方なのでしょうね。

 たとえ家にあっても、私たちは皆、後戻りできない時の流れの中の旅人。。器もまた世々を経て渡り行くものです。一期一会は人と器にもあります。ああ、いい器で食事しよう。

 

 染付けの鉢の流離や黒葡萄  おるか

 

2010年9月6日