咲いた咲いたチューリップの花が

 

 列島弧を薄紅色に染めて、桜前線が北上していきます。北陸も今週末あたりがみごろでしょう。
 足元にも、さまざまな草の芽や蕾がいっぱい。嬉しい季節になりました。山菜もそろそろ顔を出し始めます。

 平鉢にホタテと山菜の菜種和え。菜種和えというのは出汁とお酢をあわせたに和風ドレッシングに入り卵をいれたもので、味が優しくなります。菜の花を思わせるきれいな色がこの名前の由来なのでしょう。

 残ったホタテのヒモを筍と木の芽味噌焼きにしてもう一鉢。チューリップ・マグカップにコンソメスープ。ウキミはクルトンの代わりにフランスパンの硬い尻尾をカリカリに焼いたもの。焼くだけでいいので簡単ですし、あっさりしておいしい。ただすぐふやけてしまうので、食べる直前に入れてくださいね。

 チューリップはこの頃びっくりするほどさまざまな色や形のものをみることができますね。カップに描いたのは、トルコの原野に咲いている原種に近い花のイメージです。平鉢の外側にも竪琴のようなデザイン化したチューリップが咲いています。染付に淡い色を置いて、ちょっとオリエント風を狙ったつもり。トルコをはじめオリエントの古い焼き物には惹かれるものがあります。

 お天気がいいので外で食べようかと思っていたら、急に曇ってきました。花曇というのでしょうか、雲の切れ間に薄紫や水色の微妙な色調が覗きます。不思議に懐かしい灰色の空です。

 兼好法師も徒然草に「花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは。雨に対ひて月を恋ひ、垂れこめて春の行衛知らぬも、なほ、あはれに情深し。」と書いていますが、まったくそのとおりですね。
 なかなか咲かない花を待って、明け方の庭に立ち尽くすのもいい。でもわたしは、残花の、それも黄昏の、たまらないほど郷愁的な光の中の桜がいい。
 ことに廃園の花は。草花も、廃墟に咲くほど美しいものはありません。移り変わるこの世に、たまたま、めぐり合えた今日の花。だからこそ一入いとおしい。

 手に受けし花屑肉のやはらかさ  おるか

2010年4月5日