「曽宇の月」の巻 発句 秋 月 曽宇の月尋ねて左右を迷ひけり 燦
捌きは西王燦 連句会場 1〜250 2002/09/18〜2003/07/20 |
発句 秋月 曽宇の月尋ねて左右(さう)を迷ひけり 燦 脇 秋 道の途絶えて邯鄲の闇 おるか 揃わぬ柿の最たる朱色 褄黄 酒より勇む箸さきの菊 褄黄 前も後ろもただ虫のこゑ 言爺 三 秋 進退をいつもは賭けぬ相撲にて 迷鳥子 島唄の小節ひゃらりと小鳥来て 褄黄 菊膾ゲートボールの祝宴に 洗濯機 分け入れば濁酒を仕込む翁らの とびお べったら漬勤め帰りの手に提げて 言爺 秋風にニッポンチャレンジ帆のなくて ふくろう 四 雑 迷子の猫としばし遊びぬ 玲奈 雷電の太刀鞘におさめる 褄黄 盛塩くずす猫の狼藉 おるか ドリンク剤を大箱で買ふ 言爺 結び目とけてほつと一息 ふくろう 減塩料理申し渡さる 迷鳥子 テレビを消せば川の音激し 明美 お尻の余る団子屋の椅子 とびお 携帯電話もうひとつ買ふ 洗濯機 子供力士に打っちゃられたり 玲奈 五 雑 矢印を逆さまに着るサンドイッチマン 迷鳥子 空箱にお目々を書いて耳つけて ふくろう トロ箱を曳いて未明のせりにでる 玲奈 ダンボールわたちの豪邸おりたたむ宵 玲奈 ちりひとつなき禅寺の大廊下 洗濯機 細腕の主婦とは自称なりにけり 明美 スーパーのつぶれる前の賑わいに おるか 養生を組んで一服解体屋 とびお 駄菓子屋の店主の好きな謡本 褄黄 六 冬 聴く人もなき風呂場でうなる 玲奈 足袋を洗ひて星影に干す 明美 馴染む千代紙浮寝の鳥の とびお ひなたぼっこの店番は猫 玲奈 誰何の声も雪の武家町 洗濯機 衣のやうに薄く雪積む 迷鳥子 一節唸る戦地の寒夜 褄黄 綿虫のただふわりふわりと おるか あれはたしかに狼の声 言爺 氷生まるゝ水のおと音 ふくろう ふくろふ深き眠りのなかに 真里子 初裏 一 冬 解剖の心臓動く降誕祭 とびお 浪を見にゆく手袋のくれなゐを 明美 青写真めいて故里遠くなり 迷鳥子 寒林もすこぶる生くる眼下 褄黄 着ぶくれてロボツト犬を叱りゐる 真里子 冬麗のアテナの知恵にだましうち おるか 炭焼の煙に風のなき日なり 言爺 公園の日時計牡丹雪しきり 洗濯機 足跡の途切れくれなゐいろの雪 ふくろう いくつもの短き昼が過ぎ往きて 玲奈 二 相合傘の少し重たき 玲奈 結ばれた手の汗無味に溶け 褄黄 横文字の店へ連れて行かれる 洗濯機 逢へない理由考えてゐる 明美 名画座灯すあの日のネオン とびお あなたの足に躓き転び ふくろう 涙はあなたのせいではなくて 玲奈 これからのことタロットに問ふ 言爺 夢に来し野にいま佇める 真里子 空似にさへも耳を噛まれて おるか 並べて読みしロートレアモン おるか 三 雑恋 紫の憂ひたがひに上と下 褄黄 夫なくばもつとおそばに居らるるを 迷鳥子 触感の伝はる無言むつびあひ 褄黄 手枕の黒子に星の名を付けて とびお 誕生石のわざと置き忘れしピアス おるか かしましき人振り向けば己が妻 真里子 嫌われるべく黒板に書くその名 洗濯機 今日からはお預けします部屋の鍵 言爺 四 雑恋 そもなれそめはコインランドリー 洗濯機 吉備津の釜を二人眺める おるか 甘露のワイン拉致の其の後 褄黄 かごめの鳥の遊びをせがむ とびお ヘラの爪あと残る胸板 玲奈 今様色の襲乱るる 言爺 星座差す指掌に包み込み ふくろう アフリカ象に揺られ来し夫 真里子 老いたるのちの思ひでにせむ 迷鳥子 五 雑恋 隣家(となりや)に早や洗濯機回す音 迷鳥子 薬でも草津の湯でも治らない 言爺 来し方のロンド流るる船舶に とびお かんたんにセピアにできるディスプレー 洗濯機 やわらかなふみ薄墨の山の端 褄黄 覚えなき受話器の奥の女声 真里子 やうやうに写真を抜きし跡古りて おるか 六 雑 観覧車遠く光りひかり とびお みな小町なる川沿いの村 おるか 行住坐臥とは祖母の念仏 洗濯機 魚の名で呼ぶ一家の幸福 褄黄 奥の細道自転車で行く 言爺 旅の荷物の小さく軽く 真里子 企業城下町取材班です 迷鳥子 七 雑 水晶の数珠ふさはしくならぬなり 迷鳥子 うかうかと放生池の鯉に触れ とびお 嫁姑皿と茶碗はかたづけて 洗濯機 ぽっくりと逝ける噂の寺に来て とびお 蓮の池えいやといいて渡りゆく 褄黄 地雷にて欠きし千手と思ふべし おるか 八 雑 猫の手も借りたき店あり 玲奈 水やり無用つい疑ひて 洗濯機 博物館を青空に出で 迷鳥子 湧き出るみずうすき蒼穹 褄黄 壺の切手は定形外に とびお 京の通りを歌で覚える 真里子 火の回り行く朴葉味噌の香 おるか 9 春 「春」です。しかも、次の次(11句目)は「花」の座とします。このあたりの案配を、考えて、どうぞ軽く。(燦) ■8句目について 念仏→歌が差し合うというところもありましょうが、7句目の付きぐあいからすれば、真理子さんの句がもっとも、ぞくぞくさせますね。怖いくらい。(燦) 2002/11/25 九 春 北窓を開けて障子の桟磨く とびお 姉さんに叱られ柳泣きてなほ 褄黄 春の風学生食堂混み合うて 真里子 国もとへ下る御籠の春おぼろ 迷鳥子 茶店にて菜飯田楽食べている 玲奈 ふるさとの土筆ぼこりのままごとに おるか おほかたは鳥帰りけり字小字 洗濯機 10句目は花前 9句目は下のようになりました。どことなく昔のジャズ喫茶話の余韻あり。11句目は「花の座」。10句目は「花前」の句です。丈の高い草木や恋はタブー。(燦) 十 春 柳絮の玉がこけつまろびつ 玲奈 お堀のほとりまだ暮れかねて とびお 春の水辺にコントラバスを 真里子 そらに一点赤きものあり 褄黄 猫うららかに欠伸してゐる 迷鳥子 霞うすらぐ地方空港 洗濯機 十一 花 並木道花のぼんぼりまだ点かず 玲奈 花の陰あをくそぞろに歩むなり 迷鳥子 うまひつじ時は過ぎゆく花の雲 丹仙 敬礼の視線はるかに花の駅 褄黄 ありしてふ天守の絵図に花筏 洗濯機 裏口に鬼がきてをり花の家 おるか その奥に隠し階段花明り 真里子 12 雑(無季) 軽く。(燦) 十二 春 木管パートが自主ミーティング 洗濯機 カサブランカの場面の中へ 褄黄 頬にあくびの涙こぼれて おるか 天竺までをゆらりゆらりと 真里子 基隆港にさよならを言ふ 迷鳥子 絹の手綱をしっかり握り とびお 名表 1 雑 自在に。 (燦) 名表 一 雑 打ち上げの酒は五臓に滲み渡り 玲奈 2 夏 自在に。カタカナ語を避ける。(燦) 二 夏 浦島草の釣り糸長い 彩 3 夏 自在に。できれば「場」=景の句。つまり、人物なし。(燦) 三 夏 とも釣りの鮎草の香り跳ね 玲奈 桟橋に昼顔のほか誰もいず とびお 極南へ地を這ふ血の実いちごの子 褄黄 みづたまりごとに主(あるじ)のあめんぼう 迷鳥子 夕立の海にでるともみえねども おるか 石段の狭きところに蛇の衣 真里子 両足に長靴はいていさうな虹 洗濯機 4 雑 自在に。恋句にチャレンジも可。(燦) 四 雑 赤穂の塩の辛し涙は 迷鳥子 5 雑 「恋句」を。(燦) 五 雑恋 笑おふとした口唇の忘られず とびお ローズマリーの葉から抽出した薬が、大衆薬品会社「仁丹」から売り出されています。この仁丹の人物絵柄は、ながい間、短歌人のまとめ役として尽力していた高瀬一誌さんの祖父がモデルであります。ローズマリーは、無季にしましょう。 六 雑 隣のポチの愁波届かず 玲奈 丹仙さん、ひさしぶりです。ありがとうございます。ゆっくり曾宇の雛でもご覧になって、お戻りになったことと思います。 七 秋 鰯雲ちょっとおじさんそれなんぼ とびお 8 秋・月 「月」です。月という文字を用いれば秋の季語は不要。発句と似ないように。(燦) 八 秋・月 中国研修生に月照る 迷鳥子 弓張月に撓う天秤 丹仙 笠置を抱く温みの月夜 褄黄 月の裏から石持ち帰る 洗濯機 ソナタ「月光」弾き株上げる 玲奈 築地閉まりて蒼き満月 とびお 勘定奉行は役目で月見 落胡 月に唐獅子牡丹のちらと おるか 月の小路に反戦のビラ 真里子 九 秋 お竜さんも衣替えする 玲奈 コスモスは咲いていたかと問ふ兵士 落胡 あかあかと戦火見ゆるか赤とんぼ おるか ひたすらな虫の音に肌打たせたし とびお 事なかれにてひややかな広座敷 迷鳥子 去年から尾花とりにゆく古戦場 洗濯機 国ざかひ越えて遙かを秋の蝶 真里子 十 雑 相伝の皿割りて謝る 迷鳥子 ひとりふたりと幻の増え 真里子 床の間にある刀一振り 玲奈 新しい方のコンビニに寄る 洗濯機 七里が浜に遠き波の穂 丹仙 あはれは少年十字軍にて おるか カエサルの子はカエサル名乗り 落胡 未来人謂ふ今は昔と とびお 十一 雑 底をつくスイスの秘密口座さへ 迷鳥子 モダン焼きピザ風に切るローマ人 落胡 声も無く牛の膝折る闘技場 おるか 風の日の回廊俄に迷路めく 真里子 孫が言う「天皇陛下の名字はなあに」 玲奈 おお汝而して働けカーライル とびお 御披露目によばず呪ひのこはきこと 洗濯機 十二 冬 社会鍋に老兵二人 玲奈 枝もたわゝに黄金の蜜柑 洗濯機 真ん中の穴凍てる銅貨よ 褄黄 新巻鮭が熊より届く 落胡 閉鎖のつづく空港に鷹 真里子 いざフォンデューの焦熱地獄 おるか 橇の轍を追ふてきし辻 とびお 名裏 一 冬 牡蠣を割る女肘まで雫して とびお 二 雑 富士をいつかは登る計画 迷鳥子 先日、NHKの通信講座を眺めていましたら、カーフェリーを例にしてカオス的横揺れの説明をしていました。船の進行方向+横波によって生まれる非線形的振動を図形であらわしているものでした。これは連句ゲームに応用できる。いつか「航海と連句」などという気障な文章を書いてみたい。(燦) 三 雑 真ん中に角の生えた洗濯機 玲奈 4 春 いわゆる「花前」の句です。次の5句目は名残の花。(燦) ながい船旅も、いよいよ帰港間近になりましたね。追い越して行った迷鳥子さんの二人乗り高速艇も、なかなか良かったです。 「萩の花」などのこと、お問い合わせの件、遅くなりましたが、あのことは、また書きますね。山田孝雄『連歌概説』でもかなり力を入れて述べている部分です。では、名裏4句目を締め切ります。(燦) 四 春 ひざし伸びゆく庵にあそぶ 玲奈 5 春・花・月、というようにします。初裏では、恋にかまけていて「月」を忘れていました。大盤振る舞いというか、「花に月」ということにあいなりました。工夫はお任せします。たとえば「朧」なども可。 古い例句は 月と花比良の高ねを北にして (芭蕉)では、いろいろやってみてください。(燦) 五 花・月 有明の花の匂ひに導かれ 迷鳥子 いかにも大航海ふうにのんびり巻いてきました「曾宇の月」もいよいよ挙句になりました。連衆のみなさま、ありがとうございました。 挙句 春 春仔の猫が尾を立ててゆく 玲奈 みなさま、ながらくありがとうございました。(燦) |