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白山いちげ  一輪挿し

 白山いちげが咲いたので、一輪挿しに投げ入れて部屋の隅のテーブルに置きました。北陸のうつろい易い光に蕾んではまた開く蒼い花。障子を通った光線がフランドル絵画のような薄鈍色の翳を添えています。

 山野草を活けるのに、口の細い一輪挿しや鶴首は出番が多い花器です。細い細い鶴首の先に一輪挿して眺めると小さくめだたない野の花の、精妙さにしみじみ見惚れます。白山いちげは深い切れ込みのある濃色の葉の中から細い花茎を伸ばした姿が可憐です。白のほか薄紫や淡い蒼があって、とくに青い花はリルケのお話の老夫婦の庭に咲き出でた死の花はこんな色ではなかったかと思ったりします。

 写真はわが家の居間のスナップです。後の和紙の作品は橿尾正次の「あかり」、額縁にはいっているのはオットセイの素描です。

予言の書はづれ白山いちげ咲く    おるか

 家の前の橋のそば、川へなだれる斜面に白山いちげの群落があります。そこだけ日当たりがいいのでしょうか、二月末から他の花に先駆けて真っ白な花弁を光に向けて開きます。雨や雪に降られてもそっとつぼんでこらえています。今年の三月の大雪で一度はすっかり覆われてしまったのに、また元気に咲いてくれました。か細く見えるのに強い花なんですね。

 対岸に、蒼いいちげが少し遅れて咲き出します。神秘的な蒼です。近似種の一輪草や二輪草にはこの蒼い色はみられないようです。葉の色もやや暗紫色がかって芽立ちのときはバロック的ともいえる唐草模様をほどきます。キンポウゲ科の毒を感じさせ、それがひときわ美しい。(おるか)

2004・3・15

2004/3/15

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