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花野(伊吹山)

   

 雨の晴間に、滋賀県の最高峰伊吹山に登ってきました。といっても、頂上近くまで車で行ったのですけど。

 山霧の中、もう秋の花が咲き始めていました。吾亦紅やキリンソウ、白いサラシナショウマの群落。下野草は終りかけて、残んの花がそこここに一入可憐な薄桃色をのぞかせています。

 晴れていれば琵琶湖や中部山岳地帯も望めるそうですが、その日は霧が濃く下界はなにもみえませんでした。でも、頭の上の空は青く高く澄んで、ひさしぶりにせいせいした気分になりました。

 帰り道、山裾を巡る道から、山の北側のすっかり切り崩されているのが見えました。セメント工場のベルトコンベアでしょうか巨大な芋虫のように延々と連なって山肌を蚕食しています。古来から歌われてきた神の山も見る影もありません。

 古事記では、草薙の剣を美夜受姫のところに置いて、徒手でこの山の神をやっつけてやると言った倭建命を、白猪の姿の伊吹の神は大氷雨を降らして懲らしめました。 結局倭建命はその後で死ぬんですが、そんな威力ある神の山もかたなしですね。近くに息長陵もあり、伊吹山が神の息吹の山であったことが偲ばれます。すべて昔々です。(おるか)


夭折のたれかれ思ふ花野かな   おるか

2003/8/31

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