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あおさ海苔  片身替りボタン付き長四方小付

 雪空から今日は日が射しています。大寒といっても海の底ではすこうし春が動きはじめているのでしょうか、店頭に石蓴がありました。磯の香りです。高浜虚子に

石蓴つく石にかなしや海苔つかず   虚子

という句がありました。こういうことをぬけぬけと言うところがオソロシイ。石蓴は海苔よりは硬くてよろこばれないものですが、たまに食べるには、それなりの野趣があります。

 器は小さな、足つきの長皿。飾りのボタンには渦巻文様が彫ってあります。渦巻・螺旋は人類とともに、いえ、それ以上に古い文様です。なにしろネアンデルタール人のつかっていた道具にも見られるそうですから。螺旋模様を持たない文明はありません。メソポタミア、エジプト、プレ・インカ、どこも神秘的な螺旋模様に溢れています。クレタの迷宮も螺旋形だったといいます。その中心にミノタウロスが…。日本の縄文土器の力強い造形もそうですね。

 螺旋文様の起源についても諸説あります。水の渦巻であろうとか、腸ではないか等々。中心へと誘いつつ動き止まないこの文様は永遠を夢想させます。古代の人でなくとも、死と再生の宇宙的リズムが螺旋文様のなかに宿っているのが感じられます。

 ニーチェが永劫回帰のインスピレーションを得た海辺の断崖にも、石蓴は取り付いていたでしょうか。今日はこの石蓴烏賊で一杯やりながら、永劫回帰の哲学でも読みましょうか。

いにしへの青を洗ひて石蓴かな   おるか

2004・1・26

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