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海鼠

 冬の味覚、海鼠。能登のクチコは高級品ですが、海鼠はこのあたりの何処のスーパーでも売っています。一番最初に食べた人はエライと言われる食べ物の一つですね。(石川県では河豚の糟漬けもたべます。これも毒が抜けたか最初に試した人はえらい)
それでも俳人には好まれる素材とみえて、名吟も多くあります。

ひろごりて時雨ごころの海鼠かな    永田耕衣

階段が無くて海鼠の日暮れかな     橋關ホ

 關ホ氏は金沢のご出身だったので、親しみがあったのでしょう、海鼠の句はいくつもあって、どれも飄飄としたなかに寂寥感が漂い、私は大好きです。耕衣翁の「時雨ごころ」のあえて俗謡風のテイストにもしびれますね。

 近頃読んだ本ではロビン・ギル氏の「浮け、海鼠 Rise,Ye Sea Slugs!」が圧巻。江戸時代から現代までの海鼠俳句一千句が纏められているばかりでなく海鼠壁からアメノウズメの口裂きまで、およそ海鼠に関したことなら氏の目を逃れることあたわずという力作です。海鼠への愛に圧倒される一冊。愉快な本でした。敬愚ことロビン・ギル氏の句も一つ。

海鼠裂くなにもなく益々なにも     敬愚

 写真はおろしあえと柚子の香の酢の物。海鼠の味はただコリコリと、磯の香りというか禅味というか。

海鼠噛む人ならぬもの夢に見て     おるか

2004・1・19

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