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柿  染付菊の葉形向付

 柿を菊の葉形向付に盛りました。柿をこんな風に食べることはほとんど無いとは思いますが、無いことも無いのです。懐石の最後に凝ったものもわるくはないですが、美味しい柿をただ一口に切っただけもいいものです。自宅での酒のあとに口直しにも、口と目両方でさっぱりした気分になれます。普段は、柿は豪快まるかじりや、カジュアルな皿に、菊の葉向付は刺し身や小料理にどうぞ。(オットセイ)

 熊も好むと言ふなる柿。このところこのあたりでは熊の出没が頻繁で、村内の有線放送で毎日のように注意が呼びかけられています。「柿の木の柿を採ってしまうように」、とも放送がありました。実際裏山の柿の木に、熊が上っているのを見もしました。山に食べ物が無くて、しかたなく人里まででてきてしまうのですから、なるべくそっとしてやりたいものです。

    里古りて柿の木もたぬ家もなし   芭蕉

 朱色も美しい柿の実る里はいかにも日本の故里の風景です。日本原産の柿は、だから品種も多く、渋柿のさわし方や、柿渋の利用法や、各地、各家庭に”秘伝”も多い。柿の無い秋なんて考えられませんね。

 仕事場の前の渋柿を採らずにおくと、毎年雪にあって甘くなった頃、小鳥達が啄ばみにきます。メジロ、シジュウカラと眺めて楽しいのですが、机から2メートルとはなれていないので、ここに熊がきたらやっぱりこわいなと思います。

 写真の菊の葉向付はおつくりなど盛り合わせると映えますが、勿論フルーツ皿としてもちょっと便利です。あまり写実的になりすぎず、かといって菊の葉の形の面白さを損なわないように何度か試作しました。菊の葉の、古風でいてさっぱりした香りのイメージで、あっさりした文様は、使い栄えするかと思います。菊の葉に盛る、という遊び心です。

 右手にヒョロッと添えてあるのは、青モジの枝を削ったもの。黒モジ同様いい匂いです。削りくずも取っておいて、火にくべたりします。御香より、緑な香りです。

 奥にあるのは苔盆栽のごときもの。なさけないほど幼い松ですね。

 柿を剥く向うに眉をひく男   おるか

 テレビの若い男性アナウンサーの作りこんだ眉がなぜか妙に印象的だったもので。(おるか)

2004年10月18日

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