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越前蕎麦

 お蕎麦の美味しく感じられる時節です。福井県武生市の「そば蔵 谷川」に行ってきました。写真左は、はおろし蕎麦。大根おろしと汁が掛けられています。右側は、細打ちもり蕎麦。蕎麦粉の青さがひときわ爽やかです。

 このお店では、近くの丸岡町で取れた蕎麦を使い、石臼で挽いて、混ぜるのは水だけという生粉打ち(きこうち)の蕎麦を食べさせてくれます。なにより新鮮な粉をと心がけているという御主人。職人なら打ち方茹で加減の練達は当たり前、それより蕎麦の実を一年間いかに酸化しないように保存するか、そして毎日石臼で挽いて、生きのいい粉をつかうことが味を決めるという。「粉は生きている。」という谷川さんのことばには重みがありました。

 新鮮な蕎麦粉はまるで珠光青磁のようなやわらかな薄緑色をしています。
その青みは一日で消えてしまうとか。蕎麦の命の色なのでしょう。そのために毎朝、まず粉を丹精して作る。いい粉さえ使えば蕎麦自身のねばりで、他につなぎなどなくとも写真のように美しい蕎麦ができるのだそうです。

 谷川さんの言葉の端々には並々ならぬ蕎麦への思いがにじんでいました。久々に職人らしい職人に出会った感じ。このあと細打ちは終わってしまったので、おろし蕎麦を三杯いただいて帰りました。雪国らしい柱の太い重厚な店の建物はしかしどこか閑雅な趣があり、木のテーブルも、藍一色の座布団にも行き届いたセンスが感じられます。開け放した窓から風が颯颯と通り、部屋の隅に活けられた竜胆の花を揺らしていました。(おるか)

蕎麦の花峡にいちばん星火星    薫

 上は玄そばです。そばが緑だったとは、谷川さんで初めて知りました。(オットセイ)

2001・9・3

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