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梅干   蓋付き四方小鉢   越前蕎麦皿(みのわ昌彦)

 梅干を漬ける時期になりました。上のは僕の母のものです。母が言うには、「濃い色のは着色料を使っていて、薄い色は本物と、誤解されることがあるけれど、紫蘇をたっぷり使うと色も鮮やかで、香りもいい」とのことです。濃い薄いは好みとしても、梅と紫蘇の結晶が梅干です。

漬けた後の紫蘇を乾燥させて、粉にした「紫(ゆかり)」は、ふりかけ、ちらし寿司に少々といろいろ使いますが、スパゲティにもいけるんです。そういえば、紫蘇とバジルは近い仲間ですね。(オットセイ)

梅干すや歳月の色深うして    おるか

 梅というと和歌山が有名ですが、福井県の若狭のあたりも知る人ぞ知る梅の産地です。梅干は寺家の好むもののようですね。若狭出身の水上勉に、氏が少年のころいたお寺の大黒さんが和尚さんの死後、寺をだされて近江にいるところへ会いに行く、もの悲しいエッセーがあります。
 その方はもう亡くなっていて娘さんから、和尚さんの大正十三年に漬けたという梅干をもらうのでした。口に含むと「塩辛い実は、舌の上で、つばきをまじえて溶け、にが酸っぱいが、やがて、ふくよかな甘い肉をふくらませ、ぼくの舌でころげた。ぼくは五十一年もたったその梅干のゆたかさにびっくりした。」と丁寧に描写されています。
 若いころの苦く辛い思い出も歳月の中でゆたかに変容するのでしょうか。 年年歳歳同じように漬ける梅干もまったく同じものはない。歳月の彩りの豊かさをおもいます。(おるか)

2002・7・1

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