君の眼前にあるのは、一見すると、弱々しい男に過ぎない。だが、私は、この世界において、最大の有力者だ。
“タバコを吹かす男”
あらすじ:
モルダーが、忽然として、消息を絶った。
モルダーの自宅には、乱闘の痕跡があった。第一発見者は、オマリーである。失踪当日のモルダーは、オマリーとの面会を、約束していた、という。
しかしながら、オマリーの訪問を待たずして、何者かの襲撃を、受けたものらしい。
時を同じくして、全米各地の医療機関が、様々の急病人によって、にわかに、溢れ返る。その事態は、あたかも、人々の免疫機能が、作為をもって、遮断されたかのようであった。オマリーによれば、これもまた、陰謀の一端だという。その言に従えば、免疫不全を生じるウイルスが、それと悟られぬまま、蔓延している事となる。オマリーが、急遽、モルダーとの面会を、試みたのも、その緊急性ゆえであった。
スカリーは、スキナー、ミラー、アインシュタインの協力を得て、モルダーの捜索にあたる。
File No.1006(#1AYW06)
原題:My StruggleU
邦題:闘争 Part2
脚本/監督:Chris Carter(クリス・カーター)
タグライン:This is the End(ここに終焉)
備考:
・今回の集団感染においては、数々の病原体が、猛威を振るう。その一つとして、指摘されるのが、ライノウイルスである。
ライノウイルスの命名は、ギリシア語の“Rhin”に、由来する。“Rhin”は、“鼻”の意である。主症状としては、鼻水および咽頭痛が、挙げられる。俗に言う、鼻風邪の原因ウイルスである。
ライノウイルスのワクチンは、存在しない。とはいえ、その事実は、ライノウイルスの強毒性を、意味するものではない。それぞれの症状に応じた、対症療法によって、十分、治療可能である。にもかかわらず、ワクチンの存在しない所以は、ライノウイルスの型にある。その型は、数百にも及ぶ。つまり、その弱毒性を踏まえても、各型に応じて、いちいち、ワクチンを開発するのは、非現実的なのである。
・今回の集団感染にあたって、スカリーは、原因究明の一環として、自分自身の遺伝情報を、解析する。その際、目印となるのが、十七番染色体の動原体である。
染色体は、いわば、DNAの収納容器にあたる。その一部位をなすのが、動原体である。動原体は、細胞分裂の際、重要な役割を、担うと同時に、二十三対からなる染色体を、識別する際にも、利用される。これは、それぞれの染色体に応じて、動原体の位置が、異なる事による。
・スカリーは、今回の集団感染を、ADAの人為的遮断によるものと、推理する。
ADAは、その正式名称を、アデノシンデアミナーゼという。免疫機能の中心的存在・リンパ球の増殖において、必要不可欠の酵素である。その欠損は、重大な免疫不全を、生じる結果となる。
・今回の集団感染にあたって、オマリーが、原因の一つとして、可能性を指摘するのが、ケムトレイルである。
ケムトレイルは、化学物質の混入した、飛行機雲を指す。その呼称は、“Chemical(化学)”および“Contrail(飛行機雲)”からなる、造語である。
近年、世界各国において、航空機による、化学物質の空中散布が、実施されている。これは、人工降雨などの気象研究を、目的とするものである。しかしながら、一部の陰謀論者は、その実態を、生物化学兵器の散布実験とみなして、警鐘を鳴らしている。その主張によれば、ケムトレイルの目撃地点においては、原因不明の体調不良などが、報告される、という。とはいえ、そもそも、ケムトレイルの実在からして、裏付となる客観的証拠は、存在しないというのが、実際のところである。
私見:
今回もまた、『闘争 Part1(File No.1001)』と同様、“諦めるな”が、キー・ワードとなっている。『真実を求めて』において、ジョセフ・フィッツパトリック・クリスマンが、スカリーに告げた、いわば、遺言である。その言葉がなければ、『闘争 Part1』における、モルダーの再起もまた、叶わなかったに違いない。そして、今回に至っては、オマリーの報道番組を通じて、“諦めるな”の一語が、全世界の視聴者へと、呼びかけられる事になる。その背景には、あくまでも、スパルタ・ウイルスによる免疫不全へと立ち向かう、スカリーの孤軍奮闘があった。
“タバコを吹かす男”の健在は、『闘争 Part1』において、すでに、判明していた。それに続いて、今回は、レイエスが、“タバコを吹かす男”の軍門へと、降ってしまった事実が、明らかとなる。本人によれば、その転身は、スパルタ・ウイルスによる人類淘汰を、生き延びるためだという。とはいえ、そればかりではあるまい。『真実(File No.919, 920)』をもって、モルダーとスカリーは、逃亡者となった。その上、X‐ファイル課までもが、閉鎖されてしまう。そうした窮地にあって、レイエスが、なおも、真実を追究するには、敵の懐に飛び込む以外、仕様もなかったのであろう。さもなければ、寝返ったはずのレイエスが、スパルタ・ウイルスの機密情報を、スカリーに漏洩するはずもない。
いずれにしても、奇妙な巡り合わせではある。かつてのレイエスが、愛飲していたのは、“タバコを吹かす男”と同様、モーリーであった。それを踏まえると、両者の間には、一種の因縁が、存在していたのかもしれない。
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