2011年「waiwai隊」 秋の山歩きの記録(撮影山行)  
     2011年10月5日(水)〜10月10日(月)  
     
    ・10月7日(金) 槍沢ロッジ〜大曲〜分岐〜天狗原〜(氷河公園経由)〜南岳小屋   
    相棒がセットしているアラームが鳴る前に、小屋の屋根に打ち付ける雨音で目覚めた。予定のam2時は未だだった。相棒が小声で「ちょっと小降りになるまで待とうか?」と囁いた。4時前には小降りなったようだが、窓を開けるとみぞれ交じりのようだった。結局、隣りの部屋の人たちがゴソゴソと起き出した気配がするので、私達も、意を決して出掛けることとする。  
       
  ヘッデンを灯して 

 槍沢ロッジを出発したのが、am4時過ぎである。朝食は、昨日から弁当3個を頼んでいたので適当に朝食休憩をとることとなる。また、暖かいお茶をポットに補給済みでもある。すぐ後から、二人組(VTR用の三脚を担いだ人達)が続いてくるのだろう。出来るだけ物音を立てないように小屋を出る。歩きだして暫くで、止んでいた雨がみぞれ混じりで降ってきたので、“ばば平”のテン場でカッパを着ることとした。
 
     
    テントは、夜の間に2〜3張り増えていた。ここで、水の補給とカッパを身につける。後発の二人組は「お先に」と、先行して行った。   
       
   朝陽を浴び始める   暗い中、ヘッデンだけの明りが路を照らしている。大曲で小休止。先行の二人組は入れ違いに出発して行った。東の空が白み始めたのは6時前である。相棒が三脚を要求したのは撮影タイムの合図である。紅葉のシチュエーションがイマイチなのだが、暫しの撮影。再出発後、分岐に着いたのは、6時半だった。前方には、二人組以外にも単独の人の姿が天狗原へと進んでいるのが確認出来た。  
  槍沢を朝陽が  
  天狗原分岐   分岐から少しの所で、単独の男性がザックを降ろして留まっていた。その男性は「この天気では池に槍は写らないし、雪でスリップしたらいけないのでここで待っていて、引き返す」との事であった。この先、そんな所があるのか(内心“そんな場所があるのは、私は聞いていないぞ”と呟く)。兎に角、相棒は先を目指す。猪突猛進(実は寅年生まれ)。池を見下ろせる尾根に着き、三脚を降ろしここで一枚。  
  少しだけの紅葉  さて、8時過ぎに天狗池へ到着し、暫くの撮影である。先行のVTR班は、「ハイビジョンカメラでの撮影です」との事だった。相棒が三脚を置きカメラをセットすると、案内人兼ポッカらしい人の方が話しかけてきていた。北アルプス辺りでも女性の山岳カメラマンは珍しいんだろう。  
   相棒が撮影している間、私は手持無沙汰である。前方(槍が見える筈)は、雲が除かないまま時間は過ぎて行く。その間、何組もの人が撮影に訪れているのだが、勿論全員がデジカメで中でもデジイチの人が多いのには驚きである。  
       
   
天狗池
  そんな中、単独の男性が降りて来た。「南岳からですか」と聞くと、「横尾右股からです」と、こともなげな返事である。この時間でここまで歩いて来れるのか?ビバークしていたとしたら、昨晩の雨をどう凌いでいたのか?兎に角、凄い人がいるもんだ。少しも回復の兆しが無い天候なので、一時間ほどの撮影で切り上げることとした。カメラを抱えた見物客は次々に現れていた。天狗池を後にしたのは、9時40分だった。  
   横尾尾根に向け  天狗原にて  
       
    この頃になると、南岳からの下山者と行き違うこととなった。雪渓が残っている場所でヘルメットをザックに吊ったペアに会う。「今日は大キレットを予定していたが、雪が付いてヤバそうなので中止した」と、氷河公園を降りて来たそうだ。もうこの季節、朝方のみぞれは山上では雪なのだ。こちらへ来る前に、南岳のサイトで「今朝はマイナス9℃です」とのプログを確認していたのだった。  
   カールに残雪が   
   ライチョウ   少し上がったことろにも大きな雪渓が残っていた。この雪渓が消えない場所だから“氷河公園”と名付けたのだろうか?目前の尾根に着く手前のハイマツの下へとライチョウが隠れて行った。そして、目的の尾根が横尾尾根なのだ。尾根を辿ると、左手には横尾右股が落ちている。  
    そして、前穂から屏風の頭が圧倒的に聳えている。右手には、槍の穂先が風の合間に見え隠れしている。  
   苦しい登り  横尾尾根の鉄バシゴ  
   最後のクサリ場   やがて路は痩せ尾根状となって、鉄バシゴや鎖が連続する箇所となった。すぐ下から単独の方が上がってきているが、ピッチの上がらなくなった我々と、同様のようである。この横尾尾根はコルから先(下方)は冬期ルートらしく、雪のない時期は通行禁止らしい。  
       
    もうどのくらい前の話だろう、徳島の友人から「横尾谷を上がってみたいが、ルートはどうなんだろう」と聞かれた事があった。当時は今みたいに、ネット上で情報が行き交って無くて情報も乏しかったが、現在は様相が違って来ている。ネットの情報だけでも登山計画が出来てい舞う時代である。当サイトもそのお先棒を担いでいる感があり、曖昧な情報発信をしないように気を使っているつもりなのだが。  
  横尾右股  
    苦しい登りにも終りがある。縦走路の天狗原分岐に着いたのは12時半だった。ここからは縦走路を南岳小屋へと向かうのみである。  
       
   南岳   岩だらけの路を30分も歩けば、南岳だった。ここでの撮影はカシャッで終わるのだが、小屋を前にして「三脚を出して・・」なのである。そして、このタイミングがコーヒータイムとなるのである。結局、小屋の受付は14時だった。“山”の人と同様に所用時間を書くと、今日は12時間となる。しかし我々の場合、撮影の時間がプラスされるので、全く参考にならないのである。  
   南岳小屋が見えて来た  主稜線へ抜ける  
       
    相棒の加盟している写真協会の会員証を提示すれば、割引のある小屋がある。昨晩の槍沢ロッジも今日の南岳小屋も同様だ。夕食は5時だそうだ。相棒は「何とかならないの」とぼやいている。結局、その夕食時間が、明日からの行程の変更を余儀なくする事となったのである。  
       
    以前にも引用した、小山義冶さんの『穂高を愛して20年』から

 『もし登山観というものを私も持っているなら、それは直接山へ登ることからのみ得たとは思わない。むしろ他の芸術などに接した体験と、混然とした綜合的な、いわば人生観そのものであると思う。私には山登りを純然たるスポーツとして割り切ることができない。それを他人に押し付けたり、必ずしも普遍性があるとは思わないが、−そういうところに根強い原因がある。
ー中略ー
 登山の経験が増し、あるいは山中に長く暮らしていると、どうしても山から受ける感動が次第に薄らいでいく。バリエーション・ルートの登攀に精進する者にとって、ある山に未知のルートが残されているうちは、確かにその山は常に新鮮であるに違いないが、あらゆる角度から極め尽され、登攀が完成されると急に魅力を失ってしまう。想い出をなつかしんでも、とうてい当初のような感動を得る術もなく、山は味わうほど真価が解るなどといってみても、単なる気休めに過ぎない、ましてスーパー・アルピニズムを奉ずる人々は、その傾向が強いようである』

 以上、少々長くなったが、1961年のあとがき「いま思うこと」の文中からの引用である。相棒の写真もそうだが、私の山へ対する気持ちなども再考する機会が来ているんだろう。
 
       
   南岳小屋   「昨日は写真協会の本部の人が泊まっていきましたし、明日はXX支部の人が20人ほどの連絡が入っています」と、小屋のお兄さんが言っていた。ナーンテコッタィである。相棒の一番嫌いなパターンである。沢山のカメラマンが三脚を立てて写すシチュエーション・・。4時半頃、相棒が「ちょっと、ガスが晴れそうだから三脚!」と叫んで出て行った。しかし、いつまで待っても、ガスは晴れてはくれなかった。夕食が始まったのは5時。  
       
   夕陽   夕食を食べ終えた頃、小屋のお兄ちゃんが「今、凄い夕焼けです」と叫んだ。勿論、相棒はカメラを抱えて出て行った。しかし、10分程遅かったようだ。シャッターチャンスは二度と訪れないものだ。  
     
       
    予定では、天狗池で朝焼けを迎え、逆さ槍を撮る筈だった・・・。紅葉も良くて天気も良ければ、いや天気が悪くても紅葉が良ければ、紅葉が悪くても天気が良ければ、こうなにもかも悪いのではどうしょうもないわね。氷河高原も良い所だったけどね。横尾尾根は足が届かない所があって苦労したわ! でも、それもこれも夕景の顛末に比べれば平気!

 小屋の食事は5時、5時(朝食5時、夕食5時)との説明。日の入りが5時20分だとか、ずっとガスの中だったけど明ける気配、準備をして待っていたんだけど、5時近くなりビデオカメラマンと私以外はみんな小屋に入った。待っていたかったので、ビデオカメラマンにまだいますかと尋ねると、「小屋の主人がこれが最高で暗くなると言ったから下ります」とのこと、ビデオカメラマンがいるのならもう少しいて一緒に下りようと思っていたんだけど、そう言うので下りたのよね。そして食事が終わる頃に小屋の人が「食事中ですが、今凄い夕焼けです」と言うのよ〜。で、ビデオカメラマンが後で今までで最高だったと言うような絶景を撮り逃がしたって訳。(*_*; 朝は朝で、ビデオカメラマンだけ食事時間が特別扱いよね〜。

 夕景の事で気分が悪いんだけど、気を取り直して、夜中の3時前に星を撮りに出掛けたんじょ。真っ暗闇の中でバルブをセットしたけど、出来てるかどうか一度レリーズを切ってみるも全然音もせず、フイルムも巻けないので、レンズを付けて遮光マスクの解除を忘れていたのに気付きホッとしたのもつかの間、20分程でシャッターが切れて・・・、電池切れ。あわてて電池を入れ替えて何とか星の撮影が出来たんじょ。(^^ゞ
 私がもう少し“ずうずうしかったら良かったんだけど、”意外と小心、決められた事は守るほうなんでね。