「好きだよ」
玲樹さまは、笑いながら私にそう言った。

一瞬、銀食器を磨く手が止まった。

「……そうですか」
暫くしてから、ようやくそれだけ返事を返す。
「そうですかって…それだけ?」
つれないなぁ、と玲樹さまは肩を落として見せる。その目はやはり笑ったままだ。
「他に何か御用でも? ああ、夕食のメニューでしたら、 今夜はクリームコロッケと白アスパラのポタージュ、サーモンマリネを出すとコックが言っておりましたよ」
「コロッケか〜。嬉しいな」
玲樹さまはそう言って、にこにこっと微笑んでみせる。
私は、まだ視線を手元に落としたままだ。

「それじゃ、ちょっと覗いてくるね〜」

さっき、自分が言ったことなどもうすっかり忘れたように、彼は部屋を出て行く。
ドアの閉まる音を確認して、私は食器を丁寧に布の上に置くと、片手で眼鏡を外し、 もう片方の腕で顔を覆った。

正直、まいった、と思った。




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ああ、こんなに貴方を想っていなければ。




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