螽生寺(しゅうせいじ)のもみじ
絵と文:都筑信介
(本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて仮名であり、実在しません。)
11月になり、ようやく暑さもおさまり、朝夕はだいぶ涼しい風が吹くようになったある日のこと、いつまでも、過去の回想シーンに浸っていても仕方ないかと思い、
気分を変えて、おいしいアンパンでも買いにいこうかと、章夫さんは、敦子さんのパン屋さんに、午後寄ってみました。
店内は、けっこう混んでいて、食欲の秋なのか、おやつの菓子パンや、ポテトスチック、ロールパンなどを求めに、たくさんの小学生が集まっていました。
「わー、この栗蒸しパン、おいしそう」
「あちらのアンパンもおいしそう?」
「あのロールケーキもおいしそう?」
「どれにしよう?お金がたらないから、2つは買えないしねえ~」
なんて、わいわい、楽しそうな会話が至るところで聞こえてきます。
章夫さんは、「今日は、えらい混んどるなあ(名古屋弁:とても人が多くて混雑してますね)、」
「ええ、今日は、○○祭りで、学校は半日なのよ、みんな、お小遣いもって、おやつを買いにきたのよ、まあ、パンを見に来たというよりは、お友達とlこうやって
楽しく過ごすのが、いいのかなあ?ところで、螽生寺(しゅうせいじ)の朧子さんが、「今年は紅葉がとてもきれいよ、螽生寺(しゅうせいじ)でこんなにもみじがきれいなのは、初めてかしら。散らないうちに、見に来たら?」
「そうか、螽生寺(しゅうせいじ)の裏の山門あたりは、たしかにきれいかも」
「今度の月曜日、店の定休日だから、いってみない?」
「そういう話なら、いつでもOK。」
「すごいな、お庭全体が真っ赤な紅葉だ。」
「ほんとね、朧子さんが言ってた通り、とてもきれいで、きてよかったわ~」
「そうだな、今が最盛期で、こんなもみじを見たのは、何年ぶりだろう」
「このもみじの中に入ってみると、別世界ね」
「きれいだったでしょう?ここ数年で一番きれいのような気がします。」と朧子さん。
「そうだねえ、これだけ、一気に真っ赤に染まると、みごとだ。」
「でも、ほんの1週間ぐらいですよ、そして、あっという間に、一枚一枚散っていってしまいます。無常ですよね」
「そうかあ、この美しさも永遠ではないんだ、いい思い出も、同じだね」
「そうですよ、その時その時、をもう二度とないと思って大事にしないと。平家物語に書いてあることと同じです。
祇園精舎の鐘の音は、まわりのものが次々に変わってゆく様に聞こえ、沙羅双樹の花の色はちょっとずつ変わっていってしまい、栄えたものが、いずれはしぼんでいくさまを表している。と」
そうやって、ゆっくり秋の時間は流れていくのでした。
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