犬の神社
絵と文:都筑信介
(本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて仮名であり、実在しません。)
すこしずつ、秋がやってきたような感じです。しばらく、暑い日が約2か月も続いたから、やっと、涼しい風が吹くようになり、やれやれです。
アンナがいなくなってから、いろんなところにもいかなくなったなあ、と思っていたある日、「犬大社」という、犬の神社があると聞いて、いってみようか、ということになりました。
「やっと、木の葉が黄色に変わってきたなあ」
「そうね、こうやってみると、知らないうちに秋が来ていたみたい、あら、犬の神社ってきいてたけど、ほんとうね。ほら、お稲荷さんじゃなくて、お犬さまよ。」
「なんか、あの犬の銅像、亡くなったアンナにそっくりだなあ」
「ほんと、そっくりね、知らないうちにここにきて、銅像になったんじゃないの?」
「なんか、こちらをみて、わらっているようだ」
「そうね、いらっしゃいといわんばかりだわ~、さあ、階段を上がって、おまいりに行きましょう」
手を清水で洗って、本殿にお参りしたあと、ふと横にある案内をみると、こんなことが書いてありました。
「思い出のワンちゃんの剥製をお作りします!」
「こんなことがかいてあるぞ~、見に行ってみようか」
「いらっしゃい、ようこそ」
「こんにちは、ほう、これが、犬の剥製ですか?本物そっくりに作っておられるのですね」
「はい、このごろは、ワンちゃんをとても大事にされている人が多くなり、家族同様にくらしておられる人が大半でして、ただ、犬の一生は人に比べてはるかに短く、
どうしても、悲しい別れがやってきます。そういった方々が、剥製でもいいから、現物に近いものを作ってくれないか?という依頼が多く、こういう仕事をすることになりました。」
「まあ、立派な剥製ですね、まるで生きているみたいでだわ~」
「すごいな~、1体作りあげるのに、ずいぶん時間がかかるのでしょう!」
「毛並みも本物といっしょのように、できているんだ。」
話がはずんだあと、章夫さんたちは、伽藍の奥にいってみました。
そうしたら、一軒の茶屋がありました。
ちょっと休憩です。
「もう、この辺りは紅葉がきれいだわ。」
「そうだな、こうやって、季節だけは、どんどん過ぎてゆくようだ。」
「ワンちゃんも、人と同じくらい人生が長かったらいいのにね」
「そうだな、出会いがあれば、かならず別れがある。これだけは自然の節理だからね」
こんな会話をした秋の一日でした。
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