甲状腺の病気について
 日本内科学会によりますと、成人における検診で、甲状腺機能異常をみとめる人は、男性で14,4%(7人に1人)、女性で24,7%(4人に1人)とされており、全体では、24,7%、つまり、5人に1人がなんらかの異常値をしめしているようです。(日内会誌 99:683〜685、2010)これを、現在の日本の総人口1億2,780万人のうち、15歳以上である86%にあてはめますと、実に2,385万人が潜在的な甲状腺疾患患者ということになります。
最近、特に、この分野の病気に注目が集まるのは、本人はほとんど異常を感じていないのに、検査上は甲状腺ホルモン値が、すでに低下傾向、あるいは、高値傾向である人が潜在的にかなり存在するということが、疫学調査で明らかになってきていることがあげられます。

甲状腺の病気はどうしてそんなに重要なのか?
この問題は、いま2つの理由で注目されています。
@1つは、甲状腺ホルモンが過剰になっている場合で、現在、「やせ薬」として、個人輸入されているもののなかに、甲状腺ホルモンが含有されているものあることが指摘されています(日内会誌 99:683〜685、2010)。かつては、甲状腺の疾患というと、バセドウ病が有名で、ほとんどこの病気のみが強調されてきた節がありますが、最近では、甲状腺ホルモンの過剰な状態は、必ずしも、バセドウ病のみではなく、無痛性甲状腺炎などの病気も、案外多いことがわかってきました。これらは、本人に自覚症状が乏しいことも多く、知らずに放置すると、高血圧になったり、血糖が高くなったり、「心房細動」という不整脈が、急に起きて、救急の場にくることもまれではありません。
A2つ目は、甲状腺ホルモンが足らなくなってきている状態で、とくに妊娠中に、このホルモンが低下すると、胎児に影響がおよぶ可能性があるためです。このように、現在は、妊娠時もしくは妊娠希望時は、より厳格に甲状腺ホルモン値をコントロールすべきであるという考え方が主流です(日内会誌 99:707〜712、2010)。東京女子医大の磯崎 収先生によりますと、このような潜在性の甲状腺機能低下症は、一般人口の4〜10%とされ、女性に多く、高齢者になるとさらに高くなり、20%にも達するとされています(日内会誌 99:707〜712、2010)。更年期以降の甲状腺機能低下症は、高脂血症や骨密度低下による骨折の原因に1つになりうるため、症状がなくても、定期的測定が望まれます。

甲状腺ホルモンの検査は?
血液を2〜3ml採血するだけで、ほとんど必要な検査を行うことができます。40歳以上の方で、なんとなく体が重い、冬が苦手、手足がむくむ日がある、等の症状を、加齢のせいにしていませんか?このような方は、一度、本院で甲状腺ホルモンの検査をうけられるとよいと思います。最近は、結果をその日のうちにお話しすることが可能となっています。また、今後、妊娠を希望されている方は、産科の担当の先生に、自分の甲状腺ホルモン値が適正にコントロールされているかをきいてみるのもよいと思います。日本甲状腺学会では、「潜在性甲状腺機能低下症:診断と治療の手引き」を作成しており、国際ガイドラインに準じて、妊娠時はTSHという値を、より厳格にコントロールするように求めています(日内会誌 99:707〜712、2010)。

甲状腺の病気と症状、そして治療は?
@甲状腺機能亢進症
代表は、いまでもバセドウ病ですが、その他、甲状腺の炎症として、カゼをひいたあとに起きる亜急性甲状腺炎や、無痛性甲状腺炎などがあります。バセドウ病が、甲状腺が全体に「びまん性」に大きく腫れるのに対し、一部が結節様に腫れる「プランマー病」という病気もあります。甲状腺機能亢進症の症状は、医師に指摘されないと気づかないことも多いのですが、汗が多くなったり、脈が速くなったり、体温の上昇、いらいらする、不眠傾向、痩せる、暑がる、等です。
代表的なバセドー病について概説しますと、女性に多く、大半が20代、30代の女性です。初発症状は、「ドキドキする」といった心拍数の増加によるものや、体重の減少、発汗過多、熱っぽい「不明熱」が多く、これらの症状で、内科を受診することが大半です。頚部に腫大した甲状腺を肉眼でみとめることが多く、夏に軽装したことにより、友人などから頸の「はれ」を指摘されることがあります。心拍数は、安静時でも90近くになることが多く、このため階段や坂道で「異常な動悸」を感じることが多々あります。精神的にも落ち着かなくなり、「不眠」や「不安」「いらだち」が人によっては、強く症状にでるため、「不眠症」や「不安神経症」と診断されているケースもあると考えられますバセドー病の診断は、血液検査で、甲状腺ホルモンの上昇(通常遊離ホルモンとして、F−T3,F−T4などとして測定される。)と、TSHリセプター抗体の上昇をもって、ほぼ診断可能です。これらのホルモンの測定は、本院で、簡単に検査することができ、結果も半日程度ででますので、該当する症状をお持ちの方は、受診し、検査されることをお勧めします。
治療は、「抗甲状腺薬」という「お薬」を内服して治療します。これには、。大きく分けて、メルカゾール(MMI)、とプロパジール(PTU)の2種があり、通常はメルカゾール(MMI)というお薬で、治療を開始することが多いのですが、妊娠中などは、副作用の観点から、プロパジール(PTU)で治療します。治療を開始しても、薬が効いて症状が緩和されるまでには、おおむね3週間程度かかります。このため、症状とくに「頻脈」(ドキドキする、心臓があぶつ、など心拍数の上昇による症状については、医師と相談してこれらを軽快させる「くすり」を併用するのがよいでしょう。非常に低頻度ながら、この「抗甲状腺薬」を開始して、2〜3週で、白血球が著しく減少する「顆粒球減少症」がおきることがあります。「顆粒球減少症」がおきますと、薬を内服して2〜3週程度で、急な「発熱」が出現し、感染症を引き起こすことがあり、このため、甲状腺の初期治療時には、2週に1回くらいの定期的な血液検査と「発熱の有無」のチェックが必要です。。通常、この「抗甲状腺薬」は、5年程度は続けて内服する必要があります。その後は、検査データーをみて医師が薬の量を決めていくことになります。数年で、いったん薬を中止できることがあります。しかし、その後も、定期的な診察と甲状腺ホルモンの検査は必要で、担当医とは長い付き合いとなることもあります。
甲状腺ホルモンは、化学構造上、ヨウ素(I)をたくさん有するため、バセドー病の治療中は、ヨウ素を多く含有する食物(具体的には、海苔、わかめ、昆布などの海藻類や、緑茶等)を控える必要があります。
A甲状腺機能低下症
代表は、「橋本病」という慢性甲状腺炎ですが、これ以外、最近注目されているのが、(1)意識障害をともなった頭部外傷後の中枢性のものと、(2)クモ膜下出血後に生じる中枢性のもの、です。とくに(1)は性差5:1と男性に多いとされています(日内会誌 99:720〜725、2010)。この甲状腺機能低下症の症状は、低体温、冬が苦手、脈がゆっくりになる、体が重い、手足がむくむ、脱毛が多い、活気がない、などですが、どれも、「特異性」がなく、医師を受診してはじめてわかるものも多く、この点、自己判断は危険です。
やはり、本院のように甲状腺疾患に詳しい医療機関を受診して、相談しましょう。
治療は、検査データーや症状によってかわるので、いちがいにはいえませんが、機能亢進症よりは、難しくはなく、甲状腺ホルモンが正常域に維持できるように、医師が薬を調節します。
通常、よく用いられるのは、チラージンS(50)という薬で、だいたい1日に、2〜3錠くらいです。
そのほか
かなり専門的な話になるので、詳細はふれませんが、@きちんと一定期間薬を内服しないと、治らないことがある。A薬の飲み方がかなり特殊なので、きちんと医師の指示通りにのむこと、は守るようにしましょう。


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