不整脈について

  不整脈に対する考え方はは、2010年以降、大きく変貌しました。その最大の理由は「不整脈を治療すると、その後がどうなるか?」が、わずかずつではありますが、わかってきたことがあげられます。
つまり、不整脈をある薬で治療して、その後、その患者さんがより長く生きられるか?ということです。
不整脈を治療して、心電図上は「整脈」になっても、心臓は弱くなって、心不全で早く寿命がきてしまった。では、治療した意味はなくなるわけです。慶応義塾大学の循環器内科の小川 聡先生によれば、日本で臨床で使用できる抗不整脈薬は、欧米諸国とは異なり、またそれらを使い、経験に基づいた我が国のきめ細かい不整脈治療体系が存在する現況では、欧米での大規模臨床試験のエビデンスをそのまま導入すくことは、理想的ではなく、日本人の臨床試験のデータでガイドラインを策定するほうがよいとされています(日内会誌 98(9):2181−2187、2010)

    不整脈とどう向き合うか、
不整脈に対する考えや、治療方針は、2012年になり大きく変化しました。(日内会誌101(3):625−630、2012)
そのもっとも「基本となる考え」が、「不整脈を整脈にすること」ではなく、「不整脈が原因となって起きる「脳梗塞」等の重大な病気をおこさないようにすること」に変わったことです。
つまり、一番大事なのは、outcome(結果)であり、ある薬をのんで、「不整脈を整脈にした」が、2年後に心不全を発症した、とか、1年後に脳梗塞を発症したのでは、何にもなりません。
患者さんにとって有益なのは、「不整脈が消えること」ではなく、将来にわたって大きな病気を起こさないことであります。今日の治療はこのような観点から、おこなわれるようになってきています。
不整脈の治療は、経過をみてよいものから、ひとたび起きると電気的除細動が必要なものまでさまざまで、このような一般向けのページで概説できるほど単純ではありません。このため、治療にあたっては、担当されている先生にまず、、詳しい説明をしてもらい、納得のいく治療をするようにしましょう。
治療は、薬を飲むだけではなく、ペースメーカーという電気信号を送る装置を体内に植め込んだり、ICDという植え込み型除細動器を要したり、またこれらに心室再同期療法(CRT)をいっしょにしたものがあります。また、不整脈を起こしている原因とされる心臓内の電気的病巣部位を、カテーテルで電気的に処理する方法(カテーテルアブレーションという)も今日、行われており、成果をあげています。

    「心房細動」について
本ページでは、最近、そして今後も増加するであろうとされている「心房細動」という不整脈について、概説をします。この「心房細動」という不整脈は、脳梗塞に関係する不整脈として知られています。わかりやすく言えば、心拍が不規則で、心拍と心拍の間の時間が一定しておらず、心臓が不規則に動いているようになります。このように、心拍が不規則となり、心臓の収縮が不安定となり、心臓内で血液が固まる(凝固)しやすくなります。このような状態で生じた「血のかたまり」が血流にのって脳の血管に詰まり、「脳梗塞」をおこすことが知られています。奥村らによりますと、60歳をすぎると罹患率は、男女ともに急激に増加し、80歳以上では、約4%、つまり25人に1人はこの「心房細動」を有するとされています。(日内会誌101(3):712−718、2012)。この病態は、欧米では、高齢者で高頻度ですが、日本での高齢者の有病率は幸い欧米ほどは高くないようです(日内会誌103(supplement):72-75,2013)。
ただ、この病気は、今後老齢人口が増えるにつれて、ますます増加するであろうとされています。
「心房細動」には、2つのタイプがあり、
@ 普段は正常で、時々発作的に、「心房細動」が起こり、また消えるもの(発作性心房細動という)
Aずーとこの「心房細動」という不整脈が続くもの(持続性心房細動という)
があります。@のほうが軽症ということではありません。
この「心房細動」という不整脈は、単に「脳梗塞」の原因として重要なのではなく、長期的には、心臓の機能を低下させ、結果的には生命を短くすることにつながります。
もし、この「心房細動」がおきたら、「脳梗塞」が起きないようにする薬(「血のかたまり」を溶かす薬)を、推奨量用いることが今では標準となっていますので、まずは、医師に相談して、お薬をもらいましょう。

さて、このように予防薬を内服した後、この「心房細動」という不整脈そのものの治療をどうするかを、医師と相談することになります。これについては、この「不整」な心拍を、薬で強力に「整」に変える治療が良いのか?、「不整」はそのままでよいから、心拍数が速くならないようにする治療が良いのか?が2000年台前半に欧米を中心に検討されました。結論を言いますと、心不全の発症を基準に(エンドポイントとして考えると)、両者には差はなく、むしろ「不整脈の薬」をのんだほうが、その「副作用分」だけ、経過がよくなかったとされています。(日内会誌:98(9)2181−2187、2009)
しかし、これらのデーターは、欧米のもので、今日、日本で治療薬として用いられている薬とは異なった薬で治療したデーターであり、日本で行われたJ-RHYTHMという研究では、これとは異なった結果がでており、今後は日本人のデータで治療を考える方向となっています。(Circ J 73:242−248、2009)

最近は、この心房細動を、薬ではなく、カテーテルを用いて、心臓にある不整脈の原因病巣を、電気的に遮断してしまう技術が確立してきました。(カテーテルアブレーションという)
この、「心房細動」をおこす異常な電位は、最近の研究で「左房」の前の肺静脈というところにあることがわかってきました。カテーテルを用いて、この肺静脈までアプローチし、肺静脈を全周的に電気的に「左房」から分離させますと、この「心房細動」を止めることが可能で、最近はこの方法で治療をうける患者さんが増加し、良い経過が得られています。詳しくは、担当されている先生と相談してみましょう。
このカテーテルアブレーションによる治療は、@の発作性心房細動、とくに最近このような不整脈がでて、1か月以内に行うと、よい成績が得られますが、最初の心房細動から、3か月以上たってしまってから、このカテーテルアブレーションとおこなっても、あまり良い成績にはならないようです。とくにAの持続性心房細動のケースでは、成功率は、およそ50%程度という報告です。(N Eng J Med 372:1812-22, 2015).しかし、約半数の患者に有効なら、肺静脈の電気的分離以外に、他の部位を電気的に処理することで、もうすこし成功率が上げられないか、模索中です。(N Eng J Med 372:1812-22, 2015).
なお、序論で述べましたように、「心房細動」の患者さんは、単に、この「心房細動」を除去する治療のみでなく、脳梗塞を予防する「抗凝固薬」をきちんと内服することが重要ですのでまず、これをおこなってから、このような不整脈治療を考えましょう。
脳梗塞を予防する「抗凝固薬」には、現在、
@ワーファリンという薬
A抗トロンビン薬でブラザキサという薬
B凝固因子10番の阻害薬(]a inhibitor)で、イグザレルトやエリキュースという薬がすでにデビューしています。

@のワーファリンというお薬を用いた場合、納豆などのビタミンK含んだ食べ物は、摂取できなくなり、定期的にPT(トロンボテスト)という検査で、観察しながら、内服し、脳梗塞を防ぐことが、もっとも大切です。この薬の量は、きちんと、医師の診察をうけてきめていくことになっていますので、担当の先生によく相談しましょう。
Aの薬は、このような食事制限はありませんが、腎臓の機能が悪い患者さんには使えないなどの欠点があります。副作用としては、脳出血などの合併症はAとBが少ないとされていますが、反面、胃潰瘍や大腸疾患がある場合は、消化管からの出血は逆に増加すると報告されています。担当の先生によく相談しましょう。
Bのエリキュースという薬は、80歳以上の高齢者でも、比較的安全であることが報告されました。詳しくは、本院に受診されて相談されるとよいと思います。

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