溶連菌感染症について


 幼児や学童の御両親は、幼稚園や保育園、小学校などで、この「溶連菌(ようれんきん)」という言葉を、聞く機会がよくあると思います。正式には、溶血性連鎖球菌のことで、顕微鏡でみると、真珠のネックレスのように、つらなって増殖するので、この名があります。通常は、溶蓮菌といえば、A群β型の溶血性連鎖球菌のことをさします。日常診療で遭遇する溶連菌のほとんどがこれに相当しますが、実際には、C群やG群の溶連菌も「病原性」があり、ときに難治性の扁桃炎で問題となることがあります。

   この細菌は、今日ではいたるところにあり、感染することはまれではありません。戦前の抗生物質が十分にない時代は、しょうこうねつ(猩紅熱)と呼ばれ、伝染病の1つとして解釈されていた時代もありましたが、最近は、この細菌に効く優れた抗菌薬があるおかげで、きちんと治療をすれば、治癒しうる疾患となっています。

  症状のうち、一番、重要なのが「咽頭痛(のどの痛み」です。つまり、溶連菌感染症は、一般的には、「のどのはれ」で、悪性のばい菌により生じたひどいもの、と考えていただいてかまいません。ですから、今でも、この病気を的確に診断する一番よい方法は問診で、われわれ医師がお子さんと「お話」をすることです。今まで、本院で診断できているケースでは、ほとんど100%といっていいほど、受診されたお子様から、「きのうから、のどが、いたいの!」といったcomplaints(訴え)があります。溶連菌によるノドのはれは、病初期は、のどの奥から扁桃腺にかけて全体的に赤くなるような「はれ」が多く、ひどくなると扁桃腺に膿がつくようなものや、扁桃腺がデコポンのように丸みを帯びてはれるものまでさまざまです。他の細菌たとえば「黄色ぶどう球菌」による扁桃炎や、アデノウイルスというウイルスでも、扁桃腺が赤くはれることがありますから、この病気ときちんと診断するには、口の中に、「綿棒」をいれて「ぬぐい液」をとって検査する必要があります。

  通常は、この「のどの痛み」が生じる前に、一時的に、39度前後の高熱が先行することが多く、この熱は、いったんおさまったかのようにみえるますが、よく観察をしますと、おさまったのではなく、36,8度から37.2度くらいの微熱がつづいていて、なんとなく元気がなく、だるいといった症状を有することが多いとおもいます。御両親から見ますと、これが1つの「おとし穴」で、病歴をとっていますと、「もう、熱は下がったんだから、学校にいきなさい。」といってしまったケースもあるようです。この「微熱」の時期を放置しますと、体とくに、手足の皮膚がうすく赤くなり(これが猩紅熱の由来)、2mm内外の細かい橙色の粒が癒合したような皮疹が体のあちこちでみられ、これで相談にみえる子供さんも少なくありません。今日ではあまりみかけませんが、この皮疹はひどいと、鱗(うろこ)のようにはがれることもあります。この時期に、血液の検査で、白血球数を調べますと、たとえば22,000と、みかけの症状よりはるかに重症で、菌が体中にひろがったことがわかります。このような時期にも、子供さんは「やや元気がない」「だるい」ぐらいしか訴えないので、御両親はこの点をよく理解し、子供さんとお話をされるといいと思われます。

   この病気が、重要視される理由は、上記のことのみではなく、未治療だったり、治療が遅れたりした場合に、大きな合併症をひきおこすことがあげられます。すなわち、未治療のまま、菌が体の中に、長期間にわたり存在すると、腎臓をおかし、「糸球体腎炎」という病気を発症し、タンパク尿がでて、手足や眼瞼(まぶた)がむくんだり、微熱が続いたりします。また、菌が心臓の弁膜をおかしたりすると、「弁膜症」といって、心臓の弁が完全に閉まらなくなったりして、不整脈がでて、「心臓のポンプ機能」に重大な支障をきたすことがあります。さらに、菌が手足の関節周辺の組織をおかすと、いわゆる「リューマチ性」の疾患を発症し、熱がでたり、四肢や手指の関節が熱を帯びてはれあがり、「紅班」という赤い皮疹がでたり、ときには、自分の意思に反して手足が動く「不随意運動」などがおきることもあります。このようなことがおきないように、早めに受診し、適切な治療をうけましょう。

  治療について
 現在では、いろんな種類の「抗菌薬」が診療の場で使われており、治療計画にもとずいた薬の内服等がきちんと行われれば、経過は心配ないといえます。治療薬は現在でもぺ二シリン製剤が主流ですが、他にも優秀な薬はあり、先生とよく相談しましょう。通常は、10日間連続した薬の内服が推奨で、この間数回の診察と検尿は必要だろうと思います。また、発症後1月くらいは、良好な免疫を得るため、食生活に留意し、十分な睡眠をとるようにしましょう。


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