脂質異常症について

脂質異常症という言葉は、医学の分野でもまだ最近になってよくみられるようになった「言葉」で、いままで、高脂血症とか、高コレステロール血症と呼んでいたものの「総称」と考えてよいとおもわれます。この中でも、高いコレステロール値と心筋梗塞などの虚血性心疾患との関係は、かなり以前から報告され、運動療法や食事療法で、これを適正な値に是正すると、虚血性心疾患はかなり抑えられるのではないか、という予測がかなり前からありました。しかし、旧世代の「脂質治療薬」は、若干コレステロール値を低下させるものの、 病気そのものの発症を低下させる効果はいま一つであったとされています。(日内会誌98(9):2355−2364,2009)。薬を内服することにより、血中コレステロール値が有意に低下し、心筋梗塞等の虚血性心疾患の発病が顕著に抑えられるのが実証されてきたのは、あとに述べる、「スタチン」系の薬が、臨床の場で使われるようになってからです。
検診で測定する脂質の項目には、次のものがあります。
(1)総コレステロール
(2)LDL-コレステロール;いわゆる「悪玉コレステロール」と言われているものです。
(3)中性脂肪(TG とか、トリグリセリドとか書いてあるものもありますが、同じものです。)
(4)HDL-コレステロールいわゆる「善玉コレステロール」と言われているもので、これは豊富だと、心筋梗塞や脳梗塞がおこりにくいとされています。
総コレステロールは、170〜220mg/dl ぐらいが理想的で、通常は、30歳くらいまでは、よほど脂肪摂取量が過多でない限り、200を超えることは多くありません。しかし、会社にいくのみで特別な運動をしていないと、たとえば、「39歳の会社の健診」で、229mg/dlと、「やや高いですよ」という「警告」がついていることがあります。最近では、LDL-コレステロールしか測ってないことも多く、このときは、133mg/dlと書かれていて、やはり、「やや高いですよ。受診勧告」などとかかれています。これを放置して、生活習慣をかえないで約3年たちますと、総コレステロール場合は、265mg/dl まで上昇し、LDL-コレステロールの場合は167mg/dlくらいまで上昇し、心筋梗塞等の虚血性心疾患の危険水域に達してしまいます。TGつまり、中性脂肪もこれと連動して上昇していることが多いようです。
 検診で脂質異常を指摘されたらどうするか?
これらは、おもに生活習慣から生じているので、最近は「メタボリック症候群」として総合的に治療するようになりました。「メタボ」=肥満、という意味で、日本では解釈している人が多いようですが、メタボ、つまり
metabolic という言葉は「エネルギー代謝の」という意味の形容詞で、エネルギーの摂取と消費のバランスがとれていないという意味です。したがって、基本にかえると、次の3つが必要になります。
いずれの場合も、データーにより重要度がかわりますので、必ずクリニックを受診して、よく相談してみましょう。

(1)運動をする: 運動量はまずは、自分にとって無理のない量や時間帯を考える。まずこれが基本です。運動療法をせずに、コレステロール等の異常を是正することはおすすめしません。それは、データー上みかけのコレステロール値が下がっても、心筋梗塞などの心疾患の発症を十分におさえこむことができないためです。運動を毎日していれば、適当な間隔での検査は必要ですが、必ずしも、薬が必要なわけではありません。

(2)食事内容を考える: 全く、制限なしの食事から、低いカロリーのものに変更したり、量をへらす。
おおまかには、検診で脂質異常を指摘されてきたら、1日の総カロリーは1800kcal位にするのが無難です。最近は、コンビニで買う食品などでは、パッケージの裏に総カロリーが明示されています。たとえば、
たいした熱量でないようにみえるものでも、アンパンは380キロカロリーくらい、オレンジジュースは、1パック120キロカロリーもあります。ちなみに、三角形の野菜サンドイッチは1パックで250キロカロリー、トマトジュースはせいぜ1パック50〜60キロカロリーです。最近の研究では、大事なのは総キロカロリーのみで、なにでカロリーをとるかは、あまり関係がないとする報告が多いようです。

(3)薬をのむ: 上2つをやっても、改善がない場合は、薬物療法の適応となります。
コレステロールや中性脂肪を下げる薬には、分類上以下の薬があります
@コレスチラミン(胆汁酸排泄促進)
Aナイアシン
BEPAや魚油(持田製薬から、エパデール900という名で治療薬として使われている。)
Cフィブラート系
Dスタチン系(世界で最初に、日本で第一三共が開発した。現在は各社から、いろんなものがでている)
Eエゼチミブ(小腸トランスポーター阻害薬、ゼチーアという名で2008年デビュー。小腸からの脂肪の吸収を抑える、つまり脂肪を小腸から吸収せずに、便に捨てる効果をもつ)

@Aまでは、上述したように、あまり心臓病の発症をおさえる効果ははっきりしませんでしたが、Dのスタチン系の薬がLDL-コレステロールを下げ、心筋梗塞等の虚血性心疾患の発症を低下させるという研究論文が、WOSCOPS(1995年)、AFCAPS/TexCAPS(1998年)、ASCOT-LLA(2003年)、などで「一次予防」として確立し、現在も、虚血性心疾患の予防に、国内外を問わず使われているのみでなく、一度このような心筋梗塞等の虚血性心疾患を発症した患者さんが、2回目の再発をしないように(二次予防)も使われています。(日内会誌 98(9):2355-2364,2009).
最近の研究では、血液中の脂質が多くなると、脳に血液をおくる内頚動脈や心臓を栄養する冠動脈という血管に、プラーク(plaque)という肥厚部位ができて、これが破れて血管が急に詰まってしまって、その結果心筋梗塞等の虚血性心疾患が急に起きるとされていて、これを、やや難しくなりますが「急性冠症候群」とよんでおり、これを予防することが循環器内科の大きな課題です。、このスタチン系の中の、どの薬で?LDL-コレステロールをどこまで下げたらよいか?がいろんな研究で明らかにされつつあります。(日内会誌 98(9):2355−2364,2009)。
Eのゼチーアという薬は、作用のメカニズムが他と大きくことなり、便への脂肪排泄なので、副作用が少ないといった利点や、軽症例でも導入しやすいといった長所があります。
一方、中性脂肪が高い例についても、それを低下したほうがよいことでは一致していますが、どのくらい下げたらよいか?や、どの程度、虚血性心疾患の発症に関係しているかは、まだはっきりとしてはいません。(これを、十分なエビデンスがない。という)詳しくは、クリニックを受診して、医師と相談してみましょう。
BのEPAに関しては、最近、JELISという研究結果がでて、上述のスタチンをのんだ上で、さらにEPAを追加で内服すると、
心筋梗塞などの冠動脈イベントが、53%も減少することが報告されました。(Saito Y. et al : Atherosclerosis 200 :135〜140,2008)
これは、一次予防つまり、まだ心筋梗塞などの病気が発症していない人でのデータですので、このような病気の発症を抑えたいひとのとっては、大切です。スタチン残余リスクといいまして、いくら、血圧を正常化し、糖尿病があるなら治療し、生活習慣を改善し、スタチンをつかってコレステロールを正常化しても、冠動脈疾患を予防できるのは、せいぜい100人中30〜40人くらいで、残りは依然リスクが残存するということです。これに、EPAをたして服用すると、53%も減少するというのですから、その効果は大きいといえます。日本人が、欧米にくらべて、今日まで、冠動脈疾患が少なかったのは、日本人が、魚をたべていたから、という仮説を支持する研究結果になったと思います。
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