腸管感染症
腸管出血性大腸菌感染症について
今年も、しだいに平均気温が上昇し、食中毒の発生しやすい季節となりました。従来は、食中毒といえば、サルモネラ菌やブドウ球菌など、腐敗菌のたぐいが大半をしめ、一時的な下痢、嘔吐がみられるものの、きちんとした治療をおこなえば、経過はよく、重症化するといったことはまれで、さほど一般大衆の関心も高くはありませんでしたが、堺市で10.000人規模の集団発生があってからは、世間の関心も高くなりました。今日では、腸管感染症の原因となる病原体は、腸管出血性大腸菌のみではなく、ウイルスによるものや、海外からの輸入感染症(O139型コレラ菌など)によるものもあり、多様化しているのが、現実ですが、ここでは、民間に関心の高い腸管出血性大腸菌について、お話します。
1)腸管出血性大腸菌とは
腸管出血性大腸菌は、もともとは、家畜由来で、ウシの大腸のなかにいる大腸菌と考えてよいでしょう。問題は、これらの菌のうち、ベロ毒素という血液の成分を破壊する毒素をもつものがでてきたということです。ベロ毒素は、大量に血液のなかにでると、脳の血管などで出血をひきおこすだけでなく、腎臓の機能を低下させます。そして、ときには腎臓の機能が高度に低下したために(溶血性尿毒症症候群 HUS)、人工透析という治療が必要になる場合もあります。マスコミでは、O157が有名になりましたが、ベロ毒素をだす菌株はこのほかにもO26、O111などが知られています。また、DNAの精密検査やPFGEという電気泳動法による分類では、同じO157でも、細菌の「顔」は発生した場所により、それぞれ異なり、1994年にでた「顔」は、1995年には約10%しか出てこないなど、発生原因が単一でなく、2000年現在では、いつどこでこれが発生してもおかしくないといった状況です。
2)感染源は?予防は?
北アメリカの検討では、原因と推定される感染源は、不完全な熱処理をされたハンバーガーや汚染水による食物の汚染などと論文に記載されていますが、原因が推定できるものはたかだか30%程度であり、不明なことが多いのが現状です。日本で市販されているハンバーガーは調理段階で高温で処理されているので、心配ないと考えます。予防的には、きちんと加熱したものをたべることが原則で、野菜は水道水によく浸すなどして、(水道水の塩素で死滅する。)食べるようにしましょう。
通常の食中毒とやや異なる点は、他の食中毒が相当な細菌数が体内に入らないと感染が成立しないのに比べて、この病原性大腸菌では、わずか100個の細菌が体内に入れば、感染が成立してしまうことです。このため、家族内感染が容易におこりうるし、いわゆる人々感染(person-to-person
transmission)
も、多いといわれています。
3)治療
下痢が続いたり、便に血が混じるなどの症状がある場合は、すぐに受診しましょう。感受性のある抗生物質を早期に投与すると、重症化が少ないという報告もあります.
最近、ワシントン大学のチームから、大腸菌0−157が、感染した71名の子供のHUS(溶血性尿毒症症候群)の発生率を検討した論文が発表され、抗生物質を使わなかったほうが、HUSの発生率が小さかったという報告がされています(N
Engl J Med 342:1930,2000) 。だだし、この論文では、どんな抗生物質をどの位投与したかについて、記載されておらず、現時点では、この議論は論争下にあります。この論文のなかでは、日本から報告された複数の論文についても論評を加えており、今後、この議論は、国際的な舞台で議論されることになりそうです。
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