気管支喘息(ぜんそく)
わかりやすく言えば、セキが続いて、呼吸がしにくくなる病気です。子供と大人いずれもこの病気にかかりますが、小児ぜんそくは、約80%が5歳以下で発症し、一方、成人ぜんそくの70〜80%が成人期、それも40歳以降の発症とされています。(日内会誌 98:2992〜2998、2009)したがって、成人ぜんそくの約20%が、小児期から継続している場合で、高齢者のぜんそくは、小児ぜんそくの発生原因とは異質のものとかんがえるのが良いと考えられます。高齢者は今後も増加するので、成人のぜんそくの罹患数は増加すると予想されます。わが国の有症率は、乳幼児5,1%、小児6,4%、成人3,0%で(日内会誌 98:2992〜2998、2009)、厚生労働省の2003年度の保険福祉動向調査では、全年齢中、「呼吸器アレルギー症状あり(有症率)」が、7,5%、「呼吸器アレルギー診断をされた(有病率)」が2,8%でしたと報告されています。都市部に多く、日本でも地域差があるようです。経年的には、1960年代には、1%内外であったが、年々、小児も成人も増加してきたものの、1996年までは増加傾向で、その後は明らかな増加傾向はないようです。


喘息と診断された患者さんには、ぜんそくをはじめアレルギー疾患の遺伝歴があることが多く、他のアレルギー疾患の合併頻度が高率です。その内訳は、アレルギー性鼻炎や花粉症が46%、じんましんが27%、アレルギー性結膜炎が16%、アトピー性皮膚炎が15%、慢性副鼻腔炎が15%、鼻茸や鼻ポリープが9%に合併するとされています。(日内会誌 98:2992〜2998、2009)。
このように、ぜんそくの発症には、特定の遺伝子が関連しているとが考えられ、慶応義塾大学の浅野浩一郎先生によれば、ポジショナルクローニングという手法で、患者と正常人の全ゲノムスキャンを膨大な時間と労力を使って、行った結果、イギリスとアメリカの共同チームが、ADAM33という遺伝子を、同様に筑波大学のチームがCYFIP2という遺伝子を同定しているそうです。これらは、気管支の筋肉や修復にかかわるときに関係する遺伝子のようで、日本人の小児や成人との関連は陽性のようですが、詳細はまだわかっていません(日内会誌 98:2999〜3005、2009)。
2011年の段階では、、これまでに150を超える遺伝子について、喘息との関連性が指摘されています。(日本医師会誌140(3):516、2011)これだけ多くの遺伝子が喘息発症に関与していることは、喘息が単一の分子病態からなる単一疾患ではなく、多様な分子病態からなる複雑な症候群であることを示しています。
最近、乳幼児の喘息の発症について、大変重要な論文がデンマークからでました、それは、わかりやすくいうと、妊娠期に、魚の脂の主な成分であるEPAとDHAと摂取すると、摂取しない妊婦に比べて、生まれた子どもには喘息が少ないという結果です。(N Engl J Med 2016;375:2530−9)。つまり、生まれてくる子どもを喘息から守るためには、妊娠中にお魚を食べたほうがよいということになりますね。
ぜんそくは、カゼなどのウイルス感染が引き金となって生じることが多く(これを、「気道炎症」とよぶ)これには、炎症性メディエーターとよばれる、いわば惹起物が気管支周辺にたくさん出ているようで、これらは、東京大学の長瀬隆英先生によれば、そのほとんどが、気道過敏性(たとえば、ある物質でどのくらい気管支が赤くはれるか?)や、気管支の筋肉の増殖や「ゆるみ」「しまり」に関係した物質であるとされています。この病気の悪化や、増悪には、これらが複雑に関係しているようです。(日内会誌 98:3013〜3018、2009)。アスピリンを含む消炎鎮痛薬を内服したために、「喘息様症状」が起きることが知られており、これを「アスピリン喘息」とよんでいます。最近の研究で、アスピリン喘息は、アスピリンに対するアレルギー反応ではなく不耐症で、一部の消炎鎮痛薬(専門的には、COX1阻害薬)に対する気管支や鼻粘膜の反応とされており、最近、整形外科等では、これを嫌って、安全なCOX2阻害薬であるセレコキシブなどが使用されることが増えています(日内会誌 102(6):1426〜1432、2013)。
ぜんそくの症状は、一般的には、長引くセキ、タンで、咳(せき)は夜間、とくに深夜から朝方にひどくなることが多く、早朝にせきがひどくて眠れなかったといった症状を訴えることが多いのが特徴です。中等症以上の喘息では、横になったりすると苦しくなりますが、成人の軽症例では、今までにない「長く続くせき」という自覚症状しかなく、受診して、この病気だと指摘されるまでわからなかった、という方も多いようです。1年中、セキと呼吸困難があるケースもありますが、軽症例では、「カゼ」をひいたときのみ症状がでるといった「間欠型」もよくみられます。ぜんそくには、重症度分類というのがありますから、これによって、治療に用いる薬は異なります。担当の先生と、よく相談して、十分な説明をうけて、治療方針を決めるようにしましょう。一般的には、肥満のある方は、
薬が効きにくく、重症化しやすいといった傾向があります(日内会誌 102(6):1412〜1418、2013)。
ぜんそくの治療は、主に、@急性期、セキがでて呼吸が苦しくなるとき、とAあまり、症状はないが、新たな増悪をしないように、予防をしていく時期の治療に分けられます。通常は、カゼをひいたり、インフルエンザに罹患したあとなどに、症状は悪くなることが多く、この場合は医師をきちんと受診し、吸入や点滴、内服などをすることが大切です。@のようなケースでは、速やかに医師を受診もしくは、病院の救急部門を受診し、診察をしてもらい適切な吸入、点滴をうけることがよいと思います。薬をきちんと内服して、ある程度の軽快が得られたら、Aの治療に移行していくことになります。担当医とよく相談して、治療に対して正しい知識をもつようにしましょう。現在このAの治療で使われる薬は、吸入ステロイドといわれる吸入薬(ICS)と、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、テオフィリン徐放製剤、などです。日本アレルギー学会による「喘息予防,・管理ガイドライン」は、GINA2009という海外のガイドラインとの整合性をとりいれた治療指針で、患者さんの容態により4段階のステップに分類され、これらの薬を組み合わせて治療するようになっています。使う薬と量は、個々のステップにより、異なるので、担当の先生から、詳しい説明をうけて、治療計画にしたがって、きちんと治療するようにしましょう。2011年の段階では、まず(1)吸入ステロイドとLABAの合剤の吸入(ほとんど、アドエアーとかシブミコートあるいはエアゾール剤でフルティフォームというセット化された商品がある。)、そして(2)これに抗ロイコトリエン薬(LTRA)である「キプレス」や「オノン」「シングレア」などを併用することが基本になります。

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