心筋梗塞と狭心症
さんは、お知り合いのお方が、このような病名で入院されたり、検査をうけられたりするのを聞かれたことが多いと思います。しかし、心臓にはいろんな病気があって、これがどんな病気かを知る方は以外と少ないので、ここでは、素人向きに、わかりやすく解説してみたいとおもいます。

                 心臓の構造
心臓はご存知の通り、体のすみずみに「血液」を送る働きをしているポンプです。心臓の内側は血液でいっぱいですから、心臓自体には、十分血液がありそうに思いがちですが、じつは心臓自体を動かす筋肉におくられる血液はさほど大きな血管ではないのです。心臓の筋肉につながる血管(冠動脈という)はおおまかに3本あり、足の血管などに比べると、貧弱なものです。この血管が、細くなって詰まりそうになるのが、「狭心症」で、詰まってしまったのが心筋梗塞です。この心臓の血管が、細くなっていく原因には、加齢による「動脈硬化」、高いコレステロール値、糖尿病の存在、喫煙、アルコールの多飲、ストレス、肥満等、いろいろありますが、最近では、高カロリー食の摂取と運動不足による、コレステロールの上昇(とくに悪玉といわれるLDLコレステロールの高値)と境界型糖尿病の増加が特に問題となっています。2005年以前は、この冠動脈は、動脈硬化によって、徐々に細くなってつまる、と考えられていましたが、最近では、この冠動脈内部にできた「プラーク」という脂質のかたまりが、急に壊れて、そこで急に炎症がおきて、急につまる、といった考えや、冠動脈が急にアレルギー的に、収縮してつまる、といったメカニズムも知られてきました。したがって、スタチンといった、コレステロールを下げる薬は、単に、血液中のコレステロールを下げるだけでなく、このように、心筋梗塞の予防に大変重要であることがわかってきました。とくに、血管がつまる病気は、血管の内側が、過剰な糖や脂質が引き金となって、傷つき、そこに炎症(はれ)が起きることが、大変重要で、今後の研究は、この「炎症」を早期に見つけて、これ以上ひどくならないように抑えるような薬の開発が主軸となっていきます。(日内会誌99(9):2116−2120、2010)


                   
症状は?
心臓を栄養する血管が、細くなりだしても、症状はほとんどでません。ただ、会社の検診で、高いコレステロール値ですよ、とか心電図に異常がでていますよ、といわれていることが多いのです。以下のような実例で、説明しましょう。60歳の男性、喫煙は1日に30本、毎日発泡酒(350cc)2缶、焼酎の水割り2杯、会社の検診でコレステロールが270mg/dl,中性脂肪300mg/dlと高く、血糖130mg/dlで、境界型の糖尿病で、精査を指摘された。症状がないので、放置していたが、○月×日、あさ、バスの停留所近くで、バスに乗ろうと、あわてて走ったその瞬間、急に、前胸部が、なにかでつぶされるような感じがし、目の前が真っ暗になり、その場にたおれこんだ。このような苦しさは、幸い2分くらいで消失したが、冷や汗をかき、しばらく動けなかった。さすがに、心配になり、あさ、病院にいきました。担当の先生は、朝おこったことを、詳しく問診したあと、「心電図をとりましょう。」といわれました。先生は、心電図を、じっとみていましたが、「精密検査をしたほうがよいですね」といわれ、
冠動脈撮影という心臓の血管を写しだす検査(カテーテル検査)をうけることになりました。その結果は以下の写真のようなものでした。

このように、心臓の血管がかなり細くなっていているのがわかりますね。これがほんとうに詰まってしまって、流れなくなってしまっていたら、「心筋梗塞」となり大変だったそうです。先生は、この検査のあと、この詰まりそうな血管のなかに、「風船」のようなものをいれ、血管が細くならないように「くだ」をいれてくれたようです。そのあと、もういちど撮った写真が以下のようなものです。


先生は、6か月後にもう一度、この血管が細くなっていないかどうか、検査をしましょうといわれました。それまで、血管の中に血液が固まって、閉鎖しないよう、」血液をさらさらにする薬、コレステロールを下げる薬を、飲みましょうといわれました。

                  この病気について、
実例をあげて説明をいたしましたが、おわかりいただけましたでしょうか?私たちの心臓はじつは元気にみえても、このようにもろい1面があり、高いコレステロールや、肥満、運動不足を放置すると、長い年月のあいだには、心臓を栄養する血管はこのようになってしまうのです。検診等で、血圧が高い、心電図で異常がある、コレステロールが高い、などといわれた方はとくに注意が必要です。
最近、フィンランドから、一般成人の肥満について、大変重要な結果が、一流雑誌に報告されました。これは、6328人を対象として、平均23年間の大規模調査によるもので、子供のころから大人までずっと肥満だった人は、子供のころから大人までずっと非肥満(nonobese)であった人の比べて、2型糖尿病の相対危険率は、5,4倍、高血圧の相対危険率は2,7倍、高LDLコレステロール(悪玉)の相対危険率は1,8倍、高い中性脂肪の相対危険率は3,0倍、内頸動脈の動脈硬化の相対危険率は1,7倍であったとされています。さらに、重要なのは、子供のころは肥満で成人期は非肥満であった人の危険率は、子供のころから大人までずっと非肥満であった人の危険率とおおむね同率であったということです。つまり、子供のころは肥満でも、成人期に適正体重が維持できれば、心血管系の危険因子は減るということになり、ますます大人の時期の生活習慣が重要であることになります( Juonala et al : E Engl J Med 365 : 1876-85, 2011)。
最近は、摂取している脂肪の種類や質も、狭心症や、心筋梗塞の発症に影響することが知られてきました。
動物性脂肪や、乳製品の過剰摂取は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLDという)を引き起こし、約30%が高血圧を合併するとされていますので、狭心症や、心筋梗塞の発症因子になります。近年は、トランス脂肪酸を多く含むマーガリンも、狭心症や、心筋梗塞の発症を考えると過剰な摂取は良くないとされています。(日内会誌 105:31〜37、2016)、一方、魚類に含まれる脂(おもに、EPAとDHA)はこれとは逆に、狭心症や、心筋梗塞の発病を抑えるとされています。狭心症や、心筋梗塞になりたくない方は、お魚を、定期的に食べたほうがいいということになります。さらに、くわしいお話や相談があるかたは、一度受診して相談をしてください。
なお、最近は、上のようなカテーテル(くだ)を心臓の血管に直接入れて、造影剤を用いて、心臓の血管を造影するのではなく、心臓のCTスキャンで、以下のように、きれいに分解能のよい写真ができます(冠動脈CTとかMDCTという)。この方法を使うと、点滴だけで、心臓の血管の動脈硬化度をみることができます。
愛知医大の循環器内科の天野教授によりますと、最近は、これらの心臓の血管が、将来心筋梗塞を起こしやすい血管かどうかを、血管の肥厚部(プラークという)の中身が破れやすい脂質に富んだものかどうかを、画像的に分析できるようです。CT以外にも、血管内視鏡といって、心臓の血管の内部を直接観察する検査もあり、これで、心臓の血管内が(破綻しやすい)脂質に富んだものかどうかを映像的にみることが可能で、これにより、どうゆう治療をしたほうがよいかを判断することができます。

治療について
いったん詰まりかけた心臓の血管に対しては、大きく分けて次の2つの治療があります。
@ステントという人工の管を、心臓の血管の狭窄部に留置して、血流を回復させる方法
 少し専門的になりますが、ステントには、薬剤溶出性ステント(DES)といって、ステントの内部から、血液が固まらないように、留置後に薬が溶出するタイプと、金属性ステント(BMS)というステントがあり、その後の内服薬や医師による経過観察方法にに違いがあります。
最近では、このステントの治療をするかどうかは、この狭窄部が狭心症の原因かどうかなど、詳細を十分検討してから行うようになりました。
A最近は、冠動脈バイパス手術、といって、詰まりかけた心臓の血管に、新たに他から血管をつないで、そこから心臓に血液を送る(バイパスする)治療もよい成績が得られるようになり、選択肢の1つになってきました。
とくに最近は、心臓の動脈につなぐ血管は、心臓等からではなく、胸壁の裏側を走行する「内胸動脈」を用いて、心臓の血管にバイパスする手術が多く行われるようになり、好成績が得られています
@かAのあと、「2次予防」といって、2回目の閉塞が起きないようにするために、血圧や体重の是正はもちろんのこと、血中のコレステロール、とくにLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を適正なレベルまで低下させることが必要になります。これは、主にスタチン(総称です)という薬で治療をします。
最近では、魚の脂である(EPA:エイコサペント酸)を内服すると、さらによい予防効果がでるとされています(Saito Y. et al. Atherosclerosis 200: 135〜140、2008)。
くわしいお話が聞きたい方は、受診してください。
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