高血圧症について
日本のガイドラインをふくめ、多くのガイドラインが140/90以上を「高血圧」と定義しているのですが、100万人以上を対象とした大規模調査では、115/75以上から血圧が上昇するにつれて、脳血管障害や心筋梗塞などの心血管イベントが増加することが、示されています。医療水準の上昇とともに、今日では、早期から、検診等で、高血圧を指摘され、身近な医療機関で、血圧の相談や治療をうけるようになったことは、国民の血圧水準を良い方向に導いた点で、大変意義深いと考えられています。これとともに、脳血管障害や心臓病の発症も低下していますが、最近の調査ではそれが、鈍化傾向にあるようです。その原因は、肥満、糖尿病(耐糖能低下)、高コレステロール等の脂質異常症が、増加してきていることと無関係ではないようです。そのため、新たな血圧治療の普及が望まれるところです。
最近の高血圧治療ガイドライン(JSH2014)では、とくに75歳以上の患者さんを考慮した内容となっており、とくに高血圧の診断において血管動揺性の増大(いろんな状況で、血圧の測定値が変動すること)が重要であるとされています。(日内会誌 104:253〜259、2015)
高血圧に関係する因子とは、
高血圧は、1つの「症候群」であり、いろんな要因が重なりあって、生じています。
このなかでも、高塩食、喫煙、肥満、糖尿病(耐糖能低下)、高コレステロール等の脂質異常症、遺伝歴、運動不足、などがとくに重要とされています。このうち、肥満について、最近、フィンランドから、一般成人の肥満について、大変重要な結果が、一流雑誌に報告されました。これは、6328人を対象として、平均23年間の大規模調査によるもので、子供のころから大人までずっと肥満だった人は、子供のころ大人までずっと非肥満(nonobese)であった人の比べて、2型糖尿病の相対危険率は、5,4倍、高血圧の相対危険率は2,7倍、高LDLコレステロール(悪玉)の相対危険率は1,8倍、高い中性脂肪の相対危険率は3,0倍、内頸動脈の動脈硬化の相対危険率は1,7倍であったとされています。さらに、重要なのは、子供のころは肥満で成人期は非肥満であった人の危険率は、子供のころから大人までずっと非肥満であった人の危険率とおおむね同率であったということです。つまり、子供のころは肥満でも、成人期に適正体重が維持できれば、心血管系の危険因子は減るということになり、ますます大人の時期の生活習慣が重要であることになります( Juonala et al : E Engl J Med 365 : 1876-85, 2011)。
近年は、とくに非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLDという)が、成人で増加しており、高血圧の合併頻度が約30%とされていますから(日内会誌 105:31〜37.2016)、動物性脂肪の過剰摂取は、高血圧の発症につながります。(注:魚の脂は、EPAや、DHAで構成されており、これは食べたほうがよい)。
高血圧を放置するとどうなるか?
高い血圧は、長期にわたれば、血管そのものを痛め、それを破綻に導くことになります。128/74mmHgと148/86mmHgという血圧値のみをみてもあまり、実感がわかないと思いますが、これはmmHgつまり水銀柱の高さではかってのmmなので、実際148−128=20mm水銀柱は、20cmの水圧に相当し、この2つの測定値には、これだけの水圧分の圧力差があることになります。これが24時間、365日、ヒトの血管にかかれば、脳血管障害、心筋梗塞、心肥大による「心不全」がどうしておきるかは、すこし想像がつくと思われます。
高血圧の治療について
最近の高血圧治療ガイドライン(JSH2014)でも、前回のガイドライン同様、どんな病気が背景にあるかによって、降圧目標が異なるという概念が重視されています。これは、将来発症してくる病気を、予防するには、どこまで血圧を下げないといけないか?という質問にたいしての答えになります。たとえば、他に全く病気のない人で、検診で144/86を指摘されてきた人の高圧目標は、133/80くらいでもよいですが、144/86で糖尿病がある人の降圧目標は、127/73ぐらいでないと、将来病気になるということです。どこまで、「血圧を下げるか?」については、2013年4月の時点でも、依然「議論下」で、最近の考えは、その人が有する疾患の種類や程度により、かえていかなければならないということです。(日内雑誌:102(supplement):82-85,2013)
このため、降圧目標や、どんな薬で治療するのかについても、個人個人で異なるということになります。したがって、個々の治療については、本院で、詳しく医師と相談のうえ、よりよい治療をしていただくのがよいと考えます。
とくに、2015年になり、高齢者の高血圧は血圧の変動が大きいことが重視されています。とくに、治療にあったては、@診療室で血圧が上がる、いわゆる白衣高血圧の増加、A食後には血圧低下がおきる、B起立性低血圧の増加、C早朝の高血圧、に十分留意し、診療室の血圧と、自宅で測定する家庭血圧を両方にて、降圧目標を設定することが求められます。(日内会誌 104:253〜259、2015)
日本は、世界中でどの国よりも、おそらく家庭血圧計の利用が多いとされています。この家庭血圧のデータを上手に使って血圧を治療することは、ほかの国にはない方式で、より良い結果をもたらすとされています。(日内会誌 104:253〜259、2015)。2016年になり、カナダから、心血管疾患のまだ存在しない12、705人の血圧管理についての報告がありました。これによれば、138−81という血圧を、くすりで132−78に下げても、心血管イベントの発生は変わらないようですが、上の血圧が143のままだと、心血管疾患の発生が増えるようです。(Lonn
E M et al : N Engl J Med 374:2009-2020,2016)
高血圧治療の基本
最近は、NHK等のテレビの番組でも、高血圧の問題をとりあげた番組が増えています。きちんと薬を内服しているのに、血圧が適切な値にまで下がっていない人は、意外に多く、高血圧治療している人の、およそ60%にも及ぶというのが、現状です。最近の循環器内科の動向は、これらの人の血圧管理を、いかに良い水準にもっていくかということにあります。一方、外国では、80歳以上の超高齢者においても積極的に降圧治療が必要であるという
立場が多いのですが、(N Engl J Med 358:1887-1898 ,2008) これを、いまの日本の現状に厳密にとりいれるのは難しいと考えます。
@減塩
いまさら、という方も多いと思いますが、これが意外に守られていないケースが多々あります。
高血圧外来の推奨は、一日に6g以下なのですが、一般にはかなり厳しい、というか、よほど栄養士さんが、毎日考えて調理しないと達成困難な値です。ある大学病院の高血圧の専門外来で、検査したデーターがありますが、このような減塩を意識した人たちでも、一日に11〜13gぐらいの摂取だそうです。しかし、達成困難だからといって、これを無視してしまうのは、得策ではなく、できるだけ減塩食でいくのが、長期的には、血圧の低下につながります。
最近は、いろんな、食品を売り場で買う時に、裏面をみると、Na(ナトリウム)3gとか、300mgとか書いてありますので、一応の目安とされるといいと思います。
きちんと、減塩するとそれだけで、血圧は十分さがる方もあります。サルにひとがたべているものと同じ食べ物を与えると、そのサルは高血圧になり、天然のものだけを与えると、正常血圧であるといわれています。
A運動
これも、当たり前のことかもしれませんが、きちんと毎日、30分くらいでよいから、速歩くらいの運動をしますと、
たとえ、高血圧で治療中の方でも、たとえば、153/90 mmHgというかたは、2〜3か月後には、144/86くらいには下降してきます。さらに、1年つづけると、、同じ内服薬を用いて治療していても、138/82くらいまでは、もっていけるかもしれません。すぐに結果がでないからといって、「運動」をやめてしまうのは、もったいないというか、もっと長い月日をかけて治療をつづけることが、得策と思います。
Bその他
高血圧は、全身疾患で、これの診療では、左右の血圧の違いをみたり、頸(くび)の頸動脈の雑音や拍動をみたり、尿検査で腎臓の状態をみることが大変大切です。くわしい、説明や相談をされたい方は、受診してください。
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