多発性硬化症
この病気は、もともと白人に多く、アジア系や黒人系には少ないとされています。
なかでも、北アメリカや北ヨーロッパなど北の地域に多発し、南の温暖な気候の地域には少ないことも知られています。欧米に多いタイプと日本に存在するタイプとでは、かなり差があることが、古くから指摘され、この点は最近日本の研究者からも多数の報告があり、病因と関連して研究が続いています。
この病気は、神経内科の分野では、「脱髄性疾患」と呼ばれ、神経細胞そのものの崩壊ではなく、
神経を覆っている髄鞘(エンドウ豆でいえば、「さや」のようなもの)が、穴があいたように障害をうけ、その神経が機能障害を起こす病気です。この「さや」はその後再生され、神経の機能も、不完全ながら回復しますが、ある「さや」が障害をうけ、再生し回復したと思ったら、他の別の「さや」が、障害をおこし、これらが繰り返して起きることが1つの特徴です。
したがって、患者さんの症状は、ある1つの症状がおきてこれが治ったと思ったら、全然違う症状がまた出てきたということになるのです。
症状について
日本でみられる多発性硬化症の症状で、頻度の高いものは、
1.片方の眼の視力障害
2.足(下肢)の運動障害
3.けいれん(痛みをともなうことが多い)
4感覚障害、とくに異常知覚つまり、ほんとうは皮膚に何も触れていないのに、何かが触れているように「チクチク」感じたり、やけど(火傷)のときに感じる「ひりひり」したような感じを1日中感じたりする
といったものです。
とくに、視力障害は、この病気に特徴的で、患者の眼底の写真をみますと

となり、障害をうけた側の視神経は図のように、白っぽく変性しているのがわかりますね。
検査

「さや」が崩壊したときに、「ミエリン塩基タンパク」という物質が、脳脊髄液のなかに放出されるので、これを測定すると、ある程度、この病気が疑わしいかどうかをみることができますが、MRIという検査で経時的に(間隔をあけて
数回検査することをこのようにいう)しらべると、診断がつきます。
例を提示しますと、

このように、時間をかけてみていくと、「多発性硬化症」の患者さんでは、脳のMRIの画像が、変化していきます。
つまり、1994.7.21にあった病変は1994.9.27には、ほぼ消失し、1994.12.16の画像には、別の箇所に新たな病変がみえています。このように、脳の検査を経時的にみて、はじめて診断がつくケースも少なくありません。

治療
現在は、大きく2つの治療があり、1つは、副腎皮質ステロイドという薬で、これを、点滴で定期的に注射したり、内服したりします。2つ目は、欧米で主に用いられている、インターフェロンという薬です。インターフェロンはこの病気以外にもいろんな病気に治療で使いますが、この病気で使うものは、特殊な構造のものです。
いずれも、医師が治療計画をたてて使う薬で、気軽にのむようなくすりではありません。
詳しくは、本院もしくは神経内科専門医に相談してください。

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