お嫁入り

                                          絵と文:都筑信介

                           (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて仮名であり、実在しません。)

章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。お正月が終わって、寒い日が多くなり、しばらくは冬の便りばかりだなあ、と思っていたその時、玄関のブザーがなりました。この時期にご来訪とは、珍しい?さてさて、どなたがみえたのかな?と、玄関をあけてみると、そこには、となりの、そのまたとなりの、春子さんと、たしかその娘さん?の、さよりさんが、おみえになっていました。さてさて、



「章夫さん、こんにちは。」
「こんにちは、春子さん、何かございましたか?」
「ははは、そんなかしこまった話じゃないわよ、実はね、この娘(こ)、来月、結婚することになりまして、今日はちょっとご挨拶に。」
「ははは、なんだ、そんないい話なら、大歓迎だよ、さあさあ、上がって」
「うん、そうして、ゆっくりお話できればいいんだけど、今日は、まだ、いろいろ準備があって、いくとこいっぱいあってね、あんまりゆっくりしとれんのだわ~
(名古屋弁:いろいろと行くところが多くて、ゆっくりしてはいられないんですよ)」
「そうかあ、しらんうちに、ずいぶん大きくなって、立派な娘さんになってまって、(名古屋弁:しばらく見ないうちに、すっかり大きく成長して、立派な娘さんになって)」
「挙式はどこかであげるのだろうけど、御近所には、花嫁姿を披露するの?」と章夫さんが聞くと、さよりさんは、ニコッと笑って、
「はい、〇月〇日に、式の前の1時間、家の前で、花嫁姿をお見せする予定、ちょっと照れちゃうけどね、実は、私がまだ小さかったころ、
ご町内の〇〇ねえさんが、お嫁入りしたとき、その花嫁姿がすっごくきれいで、わたしずっとみつめていたのよ。〇〇ねえさん、みんなにキャラメル1箱ずつ配ってくれてね。だから、わたしも、そういう感じで、みんなに送り出してもらえれば、最高だと思って、、、」
「そうかあ、それはいい」



この話があってから、章夫さんと敦子さんは、散歩の時、いろんなところでブライダルフェアーが開かれているのをみました。
「今年は、疫病がすこし落ち着いたから、こういう若い世代の新しい旅立ちを後押しするような企画が多いね。」
「そうね、若い人には、もっと、夢をもってもらわないと」
「それにしても、あそこにみえる結婚衣装きれいだね。」
「そうね、女の人なら、一度はきてみたいわ」



お嫁入の日は、すぐにやってきました。さよりさんは、かつて自分が、子供だったころと同じことができて、とてもうれしいといっていました。
みんな、子供たちが、「わあ、きれいだ、お姉さん、お嫁にいっちゃうの?」
といって、キャラメルをもらっていました。
昭和のころからの、伝統の一瞬。


どうですか?かつて、あなたにもそんな思い出がありますか?
                                 
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