竜の眼

                                            絵と文:都筑信介

                 (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて仮名であり、実在しません。)

章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。
今年も、夏になり、とても暑い毎日ですが、章夫さんの住んでいる町の北にある竜神池は、満々と水をたたえ、周りの山から、涼しい風が吹き下ろすため、美しい風景ということもあり、「夏の涼所」ベスト3になっています。アンナちゃんを連れて、敦子さんと、竜神池に涼しい風を求めてやってきました。竜神池の入口から、しばらく歩くと、竜神茶屋という「お休み処」があり、
ここに腰をおろして、お茶と団子をいただくことにしました。池には、山からの風で、静かなさざ波が岸辺の岩にあたり、「ピチャ、ピチャ」という、音が涼しげに聞こえます。休憩処に腰をおろして、ふと、横を眺めると、どこかで見たような人が「にやにや」と笑っています。



「猫田さん?今日も、いらしたのですね?ここは涼しいですからね?」と、茶室の女将が声をかけると、
にゃんか、毎日暑くてね、髭(ひげ)の調子がおかしくにゃってしまうにゃあ~~」
などと、わけのわからないことを、言っています。
「そういえば、今年は、竜がお姿をあらわす予言などは、聞いてないの?」と章夫さんが女将に聞くと、
「いまのところ、はっきりした日はわかってないようですよ?でも、急な嵐で、竜が天に昇竜したときに、ご利益があるように、この先の「竜の店」で、あるものが売ってますよ?」
「え~、それは何?」
「それは、竜の店に行ってのお楽しみ?」
ということで、章夫さんたちは、この先の「竜の店」に行ってみることにしました。



「こんにちは、え~、いっぱいあるけど、これは何?」と敦子さんが聞くと
店の店員さんが、「これは、竜の眼なんです」
「え、竜の眼?」
「はい、眼といっても、本物ではありませんよね、ガラス細工なんですが、ここの山でとれる珪砂(けいしゃ、ガラスの原料のこと)を使って作られたこの玉は、まわりの光によって、微妙に色が変わって見えるんです。」
「そして、竜が天に昇竜したときに、稲妻が光ると、この玉が、まるで竜の眼が光るように、一瞬発光し、まわりを照らすようで、その光に包まれた家は、「しあわせ」になると言われています。」
「そうなんだ、それはいいことを聞いた」
「この機会に、お求めになってはいかが?」
「おいくらなの?」
「1対、つまり2つの眼で、2.000円です。竜神池の奥の昇竜寺の和尚さんが、みんなに幸福がいくように、良心的な値段にされました」
「それは、それは、では、今日買っていくことにしよう」
「ありがとうございます。」



この玉を購入し、部屋の床の間に飾った章夫さんは、ある日の夕方、急に空が暗くなり、天から「ゴロゴロ」という雷神さんのおとが聞こえてきました。
一緒にいた敦子さんが、「あ、ひょっとして、きょう、竜が天に上る日かのしれないわよ?」と。
そして、一瞬大きな稲妻の音が、地響きのように、したと同時に、玉が2つとも青い光を放ち、その光は一瞬、部屋を包み込みました。
「お話通りだったね?」
「わたしも、その瞬間が見れてよかったわ~、これで、しばらくは「しあわせ」ね、ははは」
よくみると、その玉は、買ってきたときより、なんとなく、青く澄んだように変わったような気がしました。


いかがでしたか、ちょっと神秘的なお話だったかな~?でも、毎日まじめにお仕事に取り組んでいる、心のやさしいあなたなら、きっと竜神はあなたのまえに現れて、そっと「しあわせ」をくれるかもしれませんよ。

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