春のささやき
                                                                       絵と文:都筑信介

                                 ( 本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)

章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。まだ、朝夕の気温は低めだけど、陽は明るくなったなあ、と思っていたら、いつの間にか、周りには新しい緑が次々と増え、しだれ桜がポチポチと花を咲かせています。いいお天気なので、アンナちゃんと二人で、川辺まで、お散歩に出てみることにしました。もう、すっかり春の陽気で、半袖でもいいくらいです。
「いつの間に、こんなに春になったんだあ?」というと、アンナちゃんは、
「クワン」と。



遥かむこうは、しだれ桜が満開のようです。アンナちゃんは、その辺りをじっとみつめています。
「アンナ、なにか見えるの?」と章夫さんが聞くと、アンナは
「クワン」と一言。
章夫さんの目には、なんとなくですが、木のベンチになにか、モヤ~とした霞のようなものがみえます。
霧のようなベールをかぶったような人の形がかすかにみえるので、章夫さんは近づいてみてみることにしました。



近づいてみると、ベンチの上に、霞のようなふたりの女性がみえました。
アンナは、はっきりみえるらしく、クンクンと近づいてゆきます。
こんな会話が聞こえてきました。
「もう、卒業ね、どこかに進学するの?それともお勤め?」
「いろいろ考えたんだけど、将来、食べ物の研究?それから、食品の会社に入って、よい食べ物の開発や、食料の生産の仕事をしたいから、農学部に進学することにしたわ。」
「そう、それは、よかったわ」
「でも、一つ、気がかりなことがあるの」
「それは?」
「つきあっていた豆男君は、地元の広告会社に就職することになったので、離れることになっちゃうの」
「なんだ、こんなことか~、たまには離れてくらしてみるのもいいんじゃない?」
「そんな、もんかしらね?」
「ほんとに、たんぽっぽのことが好きなら、どこでも追いかけてくるわよ、」
「ははは、」
と言っていたら、横から
「おまたせ~」といって、豆男くんが現れました。



「あら、早かったわね、もう、就職先への挨拶は済んだの?」
「うん、もう当日いくだけだよ。」
ナズナちゃんが、「たんぽっぽが、遠くへ言っちゃうので、会えなくなるので淋しいって」
「だいじょうぶだよ、休みがあれば、すぐにいけるよ、特急列車で2時間かからないからね。」と豆男くん。
「それに、ラインや、メールもあるしね、もうひところの長距離恋愛なんてのは、昔の話になってきているわね」と、たんぽっぽ。
「でも・・・・・・」、とナズナちゃんがちょっと淋しような顔をして、
「心の奥にある気持ちは、ラインでは伝わらないわ...会って目を見て話してはじめてわかることもあるでしょう?」
豆男くんも、たんぽっぽさんも、一瞬黙ってしまったけれど、、、すぐに二人同時に
「うん、そのとおり、賛成!」と、
「さあ、いつも通り、豆の曲芸でござーい。」



今回の豆男くんの曲芸は、章夫さんもみえるらしく、「パチパチ、パチパチ」
「うまい、うまい」と言って、手をたたいていたら、みんな、しだいに霞のように、だんだん薄くなってきえてしまいました。
「エヴァネセント(evanescent ,はかない、時間とともに消えていくの意)!」と、章夫さん。


   どうでしたか?春は、待ちに待ったのに、桜の花が散りゆくように、あっという間に過ぎ去ってゆきますね。みなさんのまわりでも、親しかった人が遠くにいってしまったり、
仲のよかった同僚が転勤だったり、そんなことが多い時期ですね。世の中がどんどんかわっていく。でも、そんな中でも、変わらなく、そのままであり続けましょう。そのままであり続けるためには、変わっていく環境に適応していかなければなりませんが?


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