かーかの話

                                                          絵と文:都筑信介
                            (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)

章夫さんはアンナちゃんと二人暮らし(?)です。章夫さんがアンナちゃんを連れて、お散歩に行き、自宅に帰ってくると、子供が2人自宅前に来ていました。



「おじさん、こんにちは、今日、夕方、おじさんの家で、紙芝居があるんでしょう?」
「僕たち、夕方が、待ち遠しいから、もう来ちゃった。早すぎた?」と、元気な声。
「やあやあ、そんなことはないよ。今すぐ準備するからね。」
「おじさん、あの木に付いている赤いのは何?ひょっとして柿?スーパーに売ってるやつ?」
「そうだよ、そうか、今どきの子は、柿が木になってるのを見たこともないんだ?」
「食べられるの?」
「もちろん、でも、今食べたら、渋くてまったくおいしくないぞう。おいしく食べるにはちょっと工夫がいるんだ」」
「変な、柿だね、理科の実験で使うの?」
「ははは、まあ、そんなもんだ、さあ、あがって、みんなあつまったら、紙芝居のはじまり、はじまり~」
そんな、感じで、紙芝居が始まりました。



 むかし、あるところに、若者が住んでいました。若者の母親は、すでに病気で他界し、若者は、たった独りぼっちで、一生懸命生きていました。
毎日、田で稲を栽培し、高原の畑で、イモやカボチャ、豆をつくり、枯れた枝木で、自宅で暖をとるという自給自足の生活で、とても貧しいものでしたが、
若者は、明るく、毎日、鳥のささやきや、風の運ぶ草の香りに満たされながら、暮らしていました。
ある日、畑の仕事を終えて、帰路についたとき、なんとなく、後ろをついてくる足音を感じました。
若者は、とくに気にせず、そのまま、自宅にもどりました。



少し、日が暮れて寒くなってきたなあ、と思っていたときです。
玄関の引き戸の向こうから、「こんばんわ」という声が聞こえます。
若者は、びっくりして、引き戸を開けてみると、そこには、いままで見たこともない、きれいな女の人が、こちらを向いて微笑んでいます。
女の人は、「こんばんわ、もう日が暮れて、道に迷ってしまったようで、途方に暮れて、います。こちらに、泊めていただけませんか?」と。
若者は、ちょっとびっくりしましたが、女の人のやさしそうな顔や、そこから湧き出る愛らしいしぐさに、ためらうこともなく、
「それは、大変だったでしょう、さあ、お入りください」と。



女の人は、その後、1泊、2泊、そしてずっと、若者の仕事を手伝い、いっしょに、ご飯を食べる毎日となりました。
ある日、若者は、ふと、女の人に、尋ねました。「いろいろ、手伝ってもらっていて、ぼくも、うれしいが、今後はどうするの?」と。
若者がこう言い終わらないくらいに、女の人は振り向き、すこし笑って、「わたしを、あなたの妻にしてください。」と。
「ぼくも、そんな、夢みたいな話なら、よろこんでそうしたいが、ぼくは貧乏で、将来もどうなるかわからない、あなたみたいなきれいな人を幸せにする力がない。」
そういうと、女の人は、ほほえんで、「そんな、ことはない、わたしはここで平和に暮らすことしか、のぞまない。」
そんな話がしばらく続いたが、結局二人は、いっしょに暮らすことになった。



約1年後、、二人の間には、一人の女の子が生まれました。二人は、その名を、風音(ふね)と名づけました。
ふねは、「とーと」、と、「かーか」のふたりの愛情をいっぱい受けて、すくすくと育ってゆきました。
「とーと、とーとの手は大きいね~」
「かーか、だっこ~」と。



3年後、かーかは、ある問題にさしかかっていました。それも、そのはず、かーかは、実はキツネの化身だったのです。
森の神様との約束で、人の姿になれるのは3年だけ、その後はキツネにもどらなくてなりません。
3年目のある夜、かーかの後ろには、長いしっぽが生えてきて、もう人間の姿を続けることができなくなりました。
かーかは、ふねとの別れをとても悲しく思いましたが、最後に寝床に眠るふねをそっとさわって、そのまま森へと消えてゆきました。



次の朝、とーとは、ふねの泣く声で、目が覚めました。「とーと、かーかがいない。どっかへ行っちゃた~えーん」
とーとは、「よしよし、きっと何かわけがあったんだろう、きっと帰ってくるから、泣かないで、とーとはいるから」
「かーか?どこにいるの~」と

森に帰った、キツネのかーかは、森に戻ったものの、心はぽっかりあながあいたまま、どうしても、ふね、や、とーとのことが忘れられず、
森の神様にあいにゆきました。



「神様、どうしても、わたしは、もう一度、人にもどりたいです、どうしたらよいですか?よい知恵はありませんか?」
そういうと、大木の森の神様は、「簡単には、もどることはできぬ。ただ、ひとつだけ、方法がある。それは、いまのおぬしの姿のままで、人に会い、その人が
おぬしと見抜いて、その時の愛情をおぬしにテレパシーで発すれば、おぬしはもとの人にもどり、もうキツネにはもどれなくなる。」

かーかのキツネは、おそるおそる、とーとの家に行き、引き戸をトントンとたたきました。
物音に気付いたとーとは、そっと、引き戸を開けてみました。



すると、玄関には、1匹のきつねが立っていました。それを見た、ふねは、そのキツネの目から溢れ出るかつてのやさしいイメージをすぐさま感じとり、
「あ、かーかだ。かーか、おかえり、、」と一言、叫びました。



その瞬間、キツネは瞬く間に、輝き、もとのかーかにもどりました。
「かーか、」
こうして、また、かつての平和な毎日がもどりました。
若者は、それから、自然の恵に感謝し、質素ながらも、ずっと平和にくらしたそうです。



    どうでしたか?今回は、少しわれわれが、忘れかけているようなことを、すこしテーマにしてみました。
   かつて、皆さんの心の中にあったものが、思い出されましたか?



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