秋祭りの話

                                                             絵と文:都筑信介

                (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)

章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。だいぶ、夕暮れが早くなったある秋の日、章夫さんは、アンナちゃんと敦子さんといっしょに、町の東にある狐山神社にいってみることにしました。去年も章夫さんは、この狐山神社にきましたが、今年は、秋祭りが2年ぶりに開催されるとあって、朝早くから、にぎやかです。



♬ 村の鎮守の神様の
 きょうはめでたいお祭り日
どんどんひゃらら、どんひゃらら
どんどんひゃらら、どんひゃらら
朝から聞こえる笛太鼓

♬ 年も万年豊作で
村は総出のおお祭り
どんどんひゃらら、どんひゃらら
どんどんひゃらら、どんひゃらら
夜までにぎわう宮の森

「この歌、小学校では、歌ったことはないけど、聞いたことあるわ」と敦子さん。
「そうだね、敦子さんの世代では、音楽の教科書には出てこなかったかな?」
「この、どんどんひゃらら、、という音律にリズム感があっていいわね。これ、いつの作品なの?」
「たしか、昭和17年、つまり、戦時中ときいてるよ。」
「えー、意外だわ、こんな平和そうな歌なのに?」
「うん、当時は、豊作は、神様のめぐみで、ありがたいという気持ちが今より強かったらしい。作曲は、南 能衛(みなみよしえ)というお方で、東京音楽大学の助教授であったようだよ。
草案当初は、もう少し重みのあるおごそかな音律だったらしいが、それでは、小学校の児童が軽い気持ちで歌えないだろう、ということから、この「お祭り日」
のところを、「ソソラレド」と、南が、やわらかな感じに変えたらしい。戦時中にしては、すばらしい決断だったと思う。
「それで、軽い気持ちで歌えるようになったわけね。」
「そういうこと」

「午前10時からは、「豊作の舞」が披露されるようだよ。楽しみだね。」



舞は、大観衆の中、そよ風が流れるなか、盛大に行われました。
「きれいね、こうやって、舞を見ていると、自分も自然の中で、癒されるようだわ~」
「そうだね、こうやって、作物がたくさん実るのも、神様のおかげというわけ。」
「むかしから、変わっていないのね~これもすばらしい、」



舞がおわったあと、しばらく、みとれていたら、ひとりの巫女さんが現れて、挨拶をしてくれました。確か、舞を踊っていたうちの一人でしょうか?
「舞はよかったですか?」と章夫さんに声をかけました。
「はい、とても、すばらしかったです。舞も、練習が大変でしょう?}
「ええ、わたしもしっかり習得するまで、大変でした。実は、私、学生なんです」
「そうなんだ、いわゆる学生アルバイトなの?」
「はい、まあ、そういうことになりますが、募集要項には、こんなことが書いてあります。それは、単なるアルバイトでなく、これを通じて、日本の古式文化を体験して、社寺の行事に親しみをもってもらえる人材を求む、と。」
「そうなんだ」
「やってみて、想像していた以上に大変でしたが、みなさんに、実りの舞を披露できて、よろこんでもらえると思うと、うれしくて」
「それは、よかったわね。」
しばらく、話がはずんだ1日でした。

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