夜の演奏会への招待状

                            絵と文:都筑信介

            (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)

章夫さんは、アンナちゃんと、二人暮らし(?)です。お盆も終わり、少し夜が早くなったなあ、と感じるある夜、章夫さんはかすかに聞こえる虫の声に耳を傾けながら、
床に就きました。朝早く、なにかガサガサという音で、章夫さんは目覚めました。ふと目を開けると、障子に何か大きなものが、影絵のように映っていて、章夫さんの寝床に近づいてきます。
でも、その動きはとてもゆっくりで、びっくりするというよりは、何かが遊びに来たというような感じでした。



章夫さんは、起きて、そっと障子を開けてみました。そうしたら、章夫さんの倍はあろうかと思われるおおきな虫が、スッと家の中に入ってきました。
なんと、おおきなキリギリスです。章夫さんはびっくりして、思わずしゃがみ込んでしまいました。



キリギリスは、笑って、融和的に、章夫さんのほうを向くと、こう言いました。
「おどかしてごめんね、実は、ことしも螽生寺で、夜の音楽会が行われる予定なので、きょうはそのご案内にきたんだよ。去年も来てくれたでしょう?
だから、ことしもきてね。これ、虫語で書いてある招待状なんだ。どうぞ~」
といって、キリギリスは、章夫さんに招待状を手渡ししました。
章夫さんは、はじめはびっくりしていましたが、キリギリスのやさしい顔をみると、うれしくなり、
「そうか、そうか、わざわざくてくれたのか、そろそろ宿泊の予約をしようか、と思っていたところだった。まだ、予約はとれそうかい?」
「うーん、くわしいことは、朧子お姉さんに聞いてみないとわからないけど~、早くしたほうがいいよーん。」
章夫さんは急いでよやくを取ることにしました。



当日は、よく晴れた日でした。夕方になると、山のほうから、すこし涼しい風が座敷に流れてきて、とてもさわやかです。
「そうですか?キリギリスが、直接、おうちに、勧誘にいったのですね?それは、それは、きっと虫たちも、章夫さんに演奏会を聞いてほしかったのでしょう?」
「わたしも、びっくりしました。でも、それよりも、キリギリスと笑って話ができたことがうれしくて、、」
「そうですね。だれもが体験できることではありませんから、でもこの館では、虫たちが、毎日私の頭に飛んできて、なにかしら、挨拶をしてくれますよ。」
「なるほど、お互い虫たちには慕われているということですね、、、」
「虫たちには、私たちの知らない大きな世界があるのでしょう。その1ページを今夜、演奏会で披露してくれますよ。さあ、はじまりましたよ」




「今年の、指揮者は、うまおい君みたいですね。」
こうやって、一晩中、演奏会はつづきました。いい音色です。こうやって、秋の1日がゆっくりとながれてゆきました。



どうでしたか、時には、こうやって、虫たちの音色に聞き入るのもいいことですね。虫たちはなにを語っているのでしょうか?
案外、ヒトよりも優れた英知で、未来について討論しているかもしれませんよ。



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