花(あじさい)の精

                                                          絵と文:都筑信介

                 (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)


章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。皐月も終わりとなり、水無月になるころは、日本は霧雨のような雨が多くなり、曇り空の毎日ですね。そうです、いわゆる「梅雨」の季節ですね。
雨ばかりで憂鬱(ゆううつ)だなあと、思うことが多いのですが、日本ならではの、「梅雨らしい」情緒もありますね。
秋は螽斯(きりぎりす)のお寺として知られる螽生寺の裏庭は、紫陽花が群生していて、もう1つの庭として、知られています。章夫さんは、薄曇りの中、アンナちゃんを連れて、とことこと螽生寺の裏庭にあしを運ぶと、いいタイミングで、住職の朧子さんが、お出迎えです。



「いらっしゃいませ、こちらの裏庭も、今の季節は、紫陽花が満開で、見頃ですよ。」
「はい、予想通りで、きれいですね。色に微妙に違いがあっていいですね。」
「そうですね、紫陽花もどれ1つとして同じ色はありません。我々と同じです。せっかくですから、堂内の紫陽花もご覧になってくださいね」



中庭に案内されて、回廊から、紫陽花の庭を拝見すると、
「これは、また見事、いろんな紫陽花がまるで海のうえの島のように、浮かんでいるようです。」
「そうでしょう?わたしも、ここからみる中庭の景色は、この時期とても情緒的で、まさに浄土のような感じがします。」
「そうですね、いろんな嫌なことを忘れ、このような露が光る紫陽花をみていると、まさに浄土ですね。」
「そうそう、この時期、紫陽花の花に露が光るころ、ときどき、花の精、が来ますよ」
「花の精?ですか?」
「はい、心の優しい人にしか見えないらしいのですが、」
「ほら、あそこに、章夫さん見えます?」



ふとみると、紫陽花の花の間に、可憐な「花の精」がみえます。こちらを向いて、かすかに、微笑んでいます。あたかも「きれいでしょう?」
って言ってるように。



   どうでしたか、世の中は騒がしいですが、自然の世界では、ゆっくり時間が過ぎ、季節が流れてゆきますね。
花の精がみえるような、美しい心をわすれないでゆきましょう。


                               もとのページにもどる