脳梗塞について
脳梗塞とは、その名の通り、脳を栄養する血管が詰まる(閉塞)する病気ですが、その病態つまり、どの血管がどのように閉塞するかについては、あまり一般には知られていません。また、その病態も、この30年あたりで、大きく変貌しています。最近は、脳の血管がつまる病気は、脳の血管の内側が、過剰な糖や脂質が引き金となって、傷つき、そこに炎症(はれ)が起きて、体内からいろんな反応物質が飛んでくることが、閉塞のメカニズムとして重要であることがわかってきました。今後の研究は、この「炎症」を早期に見つけて、これ以上ひどくならないように抑えるような薬の開発が主軸となっていきます。(日内会誌99(9):2104−2109、2010)
ゆえに、糖尿病を予防したり、スタチンという薬で、血中のコレステロール値を下げることは、脳梗塞の予防にも大変重要であることになります。
脳梗塞は、最近は次の3つに分類されています。
@アテローム血栓性:これは主に、脳の血管の動脈硬化によって、脳を栄養する血管がつまるものです。
A心原性脳塞栓:これは、主に心臓に不整脈をもつ患者さんで、不整脈のために、心臓内に血の塊ができて、これが、溶けずに血管の走行に沿って流れ、脳に運ばれ、ここで脳の血管に詰まってしまうものです。
Bラクナ梗塞:これは脳の深部にある大変小さな動脈が、つまってしまい、穴(小さな梗塞)ができるものをさします。
脳卒中の権威である、島根大学の小林祥泰教授によれば、脳卒中データバンクの集計によると、もっとも多いのは@のアテローム血栓性で、全体の24,1%、ついでBのラクナ梗塞で22,7%、そしてAの心原性脳塞栓で19,2%とされています。ただし、Aの心原性脳塞栓は、有名な九州大学の久山町研究によれば、増加中で、今後もっとも重要になるとされています。(日内会誌 99supplement.38-42,2010.)
まず、@のアテローム血栓性の脳梗塞についてお話しすることにします。
まず、どのような症状で、これが起きてくるかですが、多くは、急に片麻痺(半身不随)が生じるのではなく、前ぶれの症状、すなわち、左手でもっていた茶碗を急に落としたり、右手でつかんでいたペンを落としたり、するような現象(これは1から2分で回復する:
このことを一過性脳虚血発作と呼んでいる。)が、2から3回ぐらいおきたあと、ある朝、おきてみると、左手と左足が動かないのに、気がつくという感じで発症します。。高コレステロール、喫煙、糖尿病、高血圧、家族に脳梗塞の方がみえる人、などがハイリスク(高危険群)とされています。いったん脳梗塞がおきてしまうと、MRIで下図のように梗塞巣が白く検出されます。このようになるまえに、前ぶれの症状がある人は、神経内科医に相談しましょう。
さて、一過性のこのようなまえぶれ症状があった患者さんに、本院でMRAという、磁石で脳の血管を描出できる検査をおこなってみると、下の写真のように脳の血管がきれいに写しだされ、問題のあった方の脳へ血流を送っている血管が細くなって流れが悪くなっているのが、わかるとおもいます。この検査は、ただ、20分くらい動かずに寝ているだけで、簡単に検査できますので、脳梗塞を心配してみえる方は、ぜひ検査されるとよいと思います
脳梗塞の治療は、
「 発症してから、どのくらいの時間で、治療に入れるか」が重要です。このため、上に記述したようなことが発症したら、自分で判断せず、すみやかに、神経内科医のいる総合病院に受診するようにしましょう。
また、まよわず、本院のような「神経内科専門医」に、自分の症状を相談することが大切です。神経内科医であれば、患者さんへの問診と、簡単な神経学的検査から、脳梗塞が生じているかどうかを判断することが可能です。必要に応じて、脳のMRI検査等をおこなったり、脳梗塞に詳しい医療施設への橋渡しをします。治療は、患者さんの病状に合わせて行いますので、どういう治療が最適かは、患者さんによってかわります。脳に血液をおくる「くびの血管(内頚動脈)」が細くなってきている場合では、脳外科の先生に、細くなった血管を、手術や、人工のくだ(管)(ステントという)を使った治療をしたほうがよい場合もあります。この「くびの血管(内頚動脈)」が細くなってきているケースは、近年増加しており、これには、このステントを使う方法と、手術で血管の細いところを直接広げる「内膜剥離術」という方法がありますが、最近の報告では、いずれの方法でも、その後の再発は10年でみた場合、両者で差がないことが報告されています。
(N Eng J Med : 374:1021-31,2016)
無症候性脳梗塞について
明らかな症状がないのに、脳MRI検査で脳梗塞が発見された場合を無症候性脳梗塞とよびます。
最近、健常者を対象にした脳ドックによる追跡調査の報告が、島根大学の脳ドックからあり(1992年から追跡調査をしている)、これによれば、2684例(平均58歳)を平均6.3年追跡した結果、この無症候性脳梗塞がある人は、脳梗塞のみならず脳出血の頻度が高いことが確認されています。(日内会誌99supplement:38-42,2010).このため、、もし脳ドックで無症候性脳梗塞が確認された方は、将来、脳卒中を発症するある程度のリスクがあることになります。
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