師走のある日
                     
                                                                    絵と文:都筑信介

                                            (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)

 章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。秋も深まり、朝夕はすっかり冷えるようになり、外へ出ると毛糸のセーターが心地よい季節です。
外の景色はというと、ここ数日であっという間に落葉が進み、遊歩道は落ち葉でいっぱいで、赤、黄色、琥珀色、茶色の葉が一面に重なり合い、似ているようで異なる色の絨毯(じゅうたん)がいたるところで敷き詰められているようで、そこに木から、はらはらと色づいた葉が、風の誘いに誘われて舞い降りるといった感じです。その落ち葉の絨毯を、ざ、ざ、ざと踏む足の音、誰かがこちらに歩いてきたぞ、と思って見てみると、それは、章夫さんと敦子さん、そしてアンナちゃんの3人(?)です。



「もう、あっという間に、冬になっちゃたみたいね。」
「そうだな、。知らない間にふゆが来たという感じかな。」
「今年は、どこにも行かないまま、誰にも会わないまま、1年が過ぎ去っていこうとしているわ。」
「そうだな、今年は春から夏、そして秋にかけて疫病が流行したからね。」
「それだけでなく、いままであったお店がなくなっちゃったり、いままで普通に販売されていたものがなくなっちゃったり、引っ越しなどでいなくなっちゃた人が多かったような気がするわ」
「そうなんだなぁ、自分の周りにあったものがどんどん変わってしまう、そして、けっして元のようにはもどらないんだなあ~、今日これから行く楽雲寺の和尚さんの年末会も、そんな話みたいだぞ。」
「そうなの?」



楽雲寺の客間では、1年を振り返るという集まりの年末会が開かれていました。和尚さんいわく、
「今年ほど、仏教でいう、諸行無常が感じられた年はありませんね。鴨長明が書いた「方丈記」には、有名な文、「ゆく川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。」とあります。」
「そうですね、なんか、今年は私の周りも、いろんなことが、変わっちゃって、ついていけないって思うこともよくありました。」
「誰しも、過去の1シーンにもどりたい、あのころは良かったと思えるんですよね?」
「でも、そう願うばかりで、そうなったことは、一度もない。これが現実です。」と、和尚さん。
「そして、そんなことを考えていると、気が付いたら、知らない間に、時がたち、自分が歳をとっている。」
「ああ、ついこないだまで、まだ自分は若いと思っていたのに、残念だわ~」
「今も、鎌倉時代も、いっしょで、みんなこういうことを考えて、暮らしていたようですよ。ようするに、その時その時を大事に生きなさい。という仏の教えです。
いつの時代もそれなりの苦難があったと思いますが、それなりに考え、一生懸命生きてきたから、今日のみなさまがあると思います。」と和尚さん。
「一ついえることは、人間以外の生命、とくに植物は、その時間が長い。1年で終わっても、次の年またどこかで、めが出て花開く。そうやって、何百年もいきていくのですから。」
「きょうは、ありがとうございました。」



その帰り、お寺の横にある茶店で、お茶をのんで、ふと外の風景をじっと見つめていると、一瞬、風が吹き、木から落ちた葉が、二人のまえを舞いました。
「まあ、木の葉のダンスだわ~、こんにちわ、そして、さようなら、といってるようだわ~」
「そうだな、ほんの一時のダンス。」と


どうでしたか?今年は、なんとなく先の見通しがたたないまま、不安とともに、日々を暮らしておられる方も多いと思います。その中で、時間だけが何もなかったようにどんどん過ぎ去っていくようですね。そう、親しかった人とも離れ、新しい出会いもなく、なんとなく1人で走っている機関車のような感じ。でも、それはあなただけではないかもしれませんよ。

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