狐(きつね)の話
         
                                                         絵と文:都筑信介

                       (本ページは、フィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)

章夫さんとアンナちゃんは二人暮らし(?)です。昨夜からの雨が、お昼ごろにやっとあがり、章夫さんは、「アンナ?やっと晴れたみたいだぞ?散歩にいってみるか?」
というわけで、章夫さんは、アンナちゃんをつれて、散歩に出かけました。ついでに、夕方の御飯は何にしよう?と思い、市場に立ち寄り、買い物をしようということにしました。。
外は、雨上がりということもあって、少々肌寒く、ときおり、急な北風が顔を横切り、秋が深まったと感じる散歩になりました。
しばらく、アンナちゃんと歩き、もうちょっとで、町の市場という道にさしかかったときでした。偶然、買い物を終えた敦子さんに会いました。



「章夫さん、お久しぶり、元気でしたか?」
「ああ、敦子さん、美容院に行ったの?ヘアスタイルがちょっと変わったようだけど・・」
「ええ、3日前に、行ってきて、ちょっと秋らしいヘアスタイルにしてみたの、そういえば、アンナちゃんも美容院にいったの?ちょっとさっぱりした感じだけど?」
「うん、だいぶ、毛がのびて、ボサボサになってきたのでね、すこし、スマートになったような感じだろ?」
「ところで、お買い物?」
「そうなんだ、夕御飯をどうしようか?といろいろ考えていたんだが、久しぶりに、お稲荷さんでも作ろうかと考えている。」
「まあ、それはいいわね。いい匂いに誘われて、キツネがあそびに来るかもよ?」
「ははは、それはいい」
「あとで、章夫さんちに寄るわ~」



アブラゲを甘く煮て、御飯を焚いて、いい匂いが炊事場いっぱいに流れ、お稲荷さんが出来上がってゆきます。
「ところで、神社は狐(キツネ)を祭っているけど、たいてい、秋のお祭りでは、お稲荷さんがふるまわれるよね。
何か、キツネとお稲荷さんって、関係あるのかなあ?」
「あまり、深く考えたことないけど、キツネはこのお稲荷さんが好物なんじゃないかしら?」
「きょうは、お稲荷さんをたくさん作ったから、いい匂いが森にも伝わっていくんじゃない?」
「そうしたら、キツネがうちに遊びにくるかな?」
「そうね、それだといいわねえ~」
「ははは、」



調理が終わって、ふと、裏庭を覗いてみると、あれ~なんか、いるよ~と。
「ねえ、ねえ、ちょっとあそこ見て~、あれ、ひょっとして、キツネさんじゃないの?」
「ほんとだ、ずっとこっちみてるぞ。」
「きっと、お稲荷さんの香りにひかれてやってきたのだわ~」
「とても、愛らしい顔している。」
「作ったお稲荷さんをそっと、その木の根元においておいてあげたら?」
「それはいい考えだ。」



夜になり、そっと、襖を開けて、覗いてみたら、やはり来ていました。キツネの親子です。久しぶりのごちそうといった感じです。そのうれしそうな顔に
思わず、「よかった」と思えたのでした。ほんとうに、いい顔です。よくみると、キツネもどことなく犬に似ていますね。

 どうでしたか?秋ですので、「稲荷ずし」がおいしいでしょうね。素朴な味なのですが、日本の秋を代表する「ごちそう」ですね。けっして、高価なものではなく、
誰もがおいしく味わえる「秋の味」。そこに、日本の良さを感じます。キツネさんもおいしそうに食べていますよ!

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