夏の竜神池

                                                         絵と文:都筑信介

                           本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。

章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。夏になりました。新聞のチラシに、夏の竜神池では、近々、納涼祭が行われると書いてありましたので、章夫さんは、夏の竜神池の様子を見に
アンナちゃんとやってきました。陽ざしが強くて暑い暑い!「やれやれ、ちょっと、木陰の茶屋で、ひと休憩!」そうです、この茶屋は、香織さんのお茶屋さんの直営店です。
「うん、このお茶はうまい!冷茶だから、さらにうまい。」と、満足そうに、夏の竜神池を眺めていると、「今年も、また、お告げがかかれた板が立ててあるわよ?」と香織さん。



「え~、そうなの、でなんてかいたあるの?」
「なんでも、今度の納涼祭に、天より竜舞い降りて、池に帰るなり。」と。
「そりゃあ、たいへんだ。さっそく、みんなに知らせないと」
「ええ、もう、うわさは、ひろがっていて、大騒ぎよ。バス会社からも、うちの茶屋に問い合わせがきたわよ」と香織さん。
「そうだな、そこに猫田くんまで、登場しているくらいだからね。」と、茶坊の傍らに現れた猫田くんをみて、章夫さんが一言。



「やあ、猫田くん、ひさしぶりだね」
「はいはい、にゃんか今日は、朝から心ときめいて、、、」
「え~、なんでそんなに、はりきってるの?朝でもないのにジョギング姿だし、、」
「うーん、にゃんていうかな、小学生のころ、明日が遠足だっていうと、ちっとも寝付けない夜だったことあるでしょう?それに近い気持ちかにゃあ~」
章夫さんは、「え~、竜が天より舞い戻ることと、猫田くんがうれしいことと、何か関係があるの?」
「竜には髭(ひげ)があるでしょう?実は、竜が地上に降りてくると、にゃんか僕の髭も、竜の髭のように、シャキッととするんだよね。毎朝、起きると手の爪で、髭を手入れするんだけど、
にゃんとなく髭のつやがあって、違うんだよね。髭の具合がいいと、体調もいいんだよね?」
章夫さんは、「ほんとに猫そっくりだ。毎日、そんなこともやってるんだ。だから、きょうは快調なのかあ?」と。
「そうにゃんですよ~!」
「あきれた。」



そして、納涼祭の当日、章夫さんは、敦子さんとアンナちゃんを連れて、竜神池を訪れました。すごい人出です。
「よくまあ、こんなに、うわさを聞きつけて来たもんね!子供やお年寄りまでいっぱいじゃない。」と敦子さん。
「まあ、今の世の中、あまり良いことが少なく、すばらしいと思えることが数少ないからね。こういう神秘的な出来事には魅力を感じるのだろうね。」
空は、夕焼けから、少しずつ夕闇に変わり、星が少しずつキラキラと輝きだしました。
そして、少し、涼しい風が湖面から、岸に向かってそよそよと吹き始めた時でした。輝いている月に、黒い雲が、煙がたなびくようにかかり始めたと思ったら、



暗い雲の隙間の中から、大きな竜が姿を現したと思ったら、またたく間に、湖の渦の中に消えて行ってしまいました。その間およそ2秒たらず。
「見た?」と、敦子さんが聞くと、章夫さんは「うん、たしかに、でも、」
「湖にもどったというよりも、自分の心の中にもどってきたというような気持だった。」
「うん、そうね、私も。今まで、失っていたものがもどってきたというような感じ。不思議ね。」
帰り際に、みんなの声を、通りながら聞くと、見たという人と、何も見えなかったという人も。
そう、信じない人には、見えなかったのかもしれませんね。


  どうでしたか?竜は、皆さんの心の中にも、生き続けているかもしれませんね。
そして、皆さんに、心の迷いが生じたり、希望の火が消えかかった時に、そっと現れて、「しっかりせよ~」とささやくのかもしれませんね。


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