七夕のお話

                                                                   絵と文:都筑信介

                        (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)

章夫さんはアンナちゃんと二人暮らし(?)です。ある日の夕暮れに、駅の商店街の傍らで、七夕祭りが開催されるとのことで、章夫さんは、敦子さんを誘い、アンナちゃんを連れていってみることにしました。結構な賑わいで、いろんなところで、笹の葉の飾り付けがあり、そこに子供たちが、それぞれ金色や銀色の短冊に「願い事」を書いて、それを笹の葉に結んでいました。



           ♪笹の葉、さ-らさら、のきばにゆれる~♬お星さま、きーらきら、金銀すなご、
           ♪五色の短冊、わたしが書いた、♬お星さま、きーらきら、空からみてる
「久しぶりだわ、こうやって七夕を味わうのも。」
「そうだな、ここ数年、七夕の天気がよくなかったからなあ」
「みんな、どんな願い事を書いて、いるんだろう?」
「そうねえ、ひとの書いたものを読むのは失礼だからできないけど、けっこうまじめな顔して、真剣に書いている子もいるようよ」
「とにかく、夢があるのは、いいことだ。」
「同感!、ああいう幼い時に、描く夢は純粋でいいわ~そして、大人になっても、そういう夢をわすれないていたいものよね~」
「ところで、七夕といえば、天の川をはさんでの、織姫(おりひめ)と彦星(ひこぼし)の恋が、物語のなかでは有名だけど、、、」
「そう、年に一度、七夕の日に、天の川を渡って、出会うことができるってお話でしょう?」
「なんか、最近、世の中が変わっちゃったせいか?あんまり、語られることも少なくなったみたいだなあ~」
「時代の変化かしらね、愛する人のために、がんばるとか、好きだった二人がやっと結婚できたことにことに、お互いが星の女神様に感謝するとか、なんてことがなくなっちゃたみたい。」
「そうだなあ?現世はそんなものかあ~」
そんな会話でちょっともりあがったのでした。



その夜、章夫さんは、アンナちゃんと縁側で、空を見上げて、「おり姫と彦星が今日デートするんだなあ、うちの庭でデートしてくれないかなあ~?」
「そうだ、アンナ、あの木に、天から目印になるように、スカーフをかけておこうか?」
「そうか、そうか、アンナもそう思うか?」
「きっと、ここに降り立って、デートしてくれるぞ~ははは」
そんなことを、考えて、木に青いスカーフをまいて、しばらく見ていましたが、さすがに眠たくなって、章夫さんは、床についてしまいました。
しばらくして夜もだいぶ更けたころ、何かささやくような声に、耳を立てたアンナは、そっと縁側にでてみました。



そんなアンナに、「アンナちゃん、こんばんわ!」とささやくような声。
「天の川の女神さまに聞いた通り、とてもかわいくて、おりこうさんね。」
「ほんとだ、アンナちゃん、アンナちゃんは幸せかい?」と彦星がきくと、アンナは笑って彦星のほうをみつめました。
「そう、それはよかったわ、いまの現世では、だんだん私たちのことは、忘れられてゆくようなので、アンナちゃんに会えてよかったわ、アンナちゃんとってもかわいい。」
「ねえ、織り姫?ぼくたちも、結婚できたら、こんなかわいらしい子が生まれるかなあ?」
「もちろん、二人の子ですもん。だから、もうちょっと、結婚できるまでがんばりましょう」
「うん、そうだな~。」そんなはなしを聞いて、アンナちゃんも、ニコニコとほほえんでいました。
そして、二人は、空高く、舞い上がってゆきました。


どうでしたか、みなさんの心のどこかに、なんとなく共感するようなところがありませんでしたか?
もし、その答えが「はい」なら、「織り姫と彦星」はあなたのこころの中で、ずっと生き続けています。そして、「織り姫と彦星」の気持ちを、いつも思い浮かべて毎日を暮らすといいと思います。



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