春来たる
                                       
                                                             絵と文:都筑信介

                                      (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称は、すべて架空で、実在しません。)

 章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。長かった冬もようやく終わりを告げ、明るい陽光が窓辺に差し込むようになり、章夫さんは、アンナちゃんにせがまれて、川辺にお散歩に出ることにしました。川辺から眺めると、もう気の早い桜の花が、遠くの霞(かすみ)にとけこむように、美しいピンク色を醸し(かもし)出しています。



「アンナ、春だねえ、もう桜があんなにきれいに咲いているぞー。」アンナちゃんは、なにか春の匂いでもするのか?川辺の岸のほうに、お鼻を「くんくんくん」。
どうも、春の香りが、そよ風に乗って、ゆらゆらと運ばれているようです。章夫さんも「くんくん」と匂いをかいでみましたら、ワンちゃんほどの臭覚はないものの、
なにか、花の香りみたいなものが、そよ風が吹くたびに飛んできているように思いました。遠くは霞か雲かわからないような感じで、ぼやけたような感じです。
しばらく、それにみとめていると、突然「こんにちは!」という聞き慣れない声。



びっくりして後ろを振り向くと、そこには、とても背の高い「若者」が、にょきっと立っているではありませんか?
「あどろいたなあ、君、あまり見かけない顔だけど~」
「僕のこと、見えます?」
「え~、どういうこと?」
「ぼくは、つくし(土筆)です。春になると土の中からでてくるんですけど。やさしい心の持ち主しか僕はみえないらしいいんです。」
「ほう?」
「去年の秋、螽生寺の虫たちから、聞いたんですけど、章夫さんという人は、多分、心のやさしいいい人だから、多分、僕たちを見ることができるよ、といっていたよ」
「そうか、ちゃんとみえるよ、そういえば君、まるで土筆(つくし)がそのまま出てきたって感じだねえ~」
「はい、僕、つくし(土筆)ですから。」
「じゃあ、僕の彼女もみえるかな?、なずなちゃん~」



「は~い。」
「お~、きれいな娘さんだ、まるで、ぺんぺん草の女神のようだ」
「ありがとうございます。実は、私たち、今度、「春の風のフィギュアショウ」に出るんです」
「そうなんだ、すごいね、2人で風の中で踊るの?」
「はい、そうなんです、では、ちょっとだけ、一部を二人で実演しますね!」



なずなちゃんは、歌いながら、踊りました。
「春の風は、みどり色~♪ゆらりゆらりとやさしく流れ♬、~春がきたよとみんなにささやき♩、、春の香りもとどけます~♪」
まるで、春のそよ風のミュージカルです。
しばらく、みとれていると、あれれ~2人の姿は、だんだん薄くなり、ゆっくり消え失せてしまいました。
「あ~、消えちゃた。」



 「アンナ~、あれは、やっぱり、まぼろしだったのかなあ~?」
「クワン」、「でも、俺たちには見えないだけで、草や虫たちには、きっとすばらしい世界があるんだろうね。」
するとアンナは、少し岸の方を見て、「ちょっとだけでも、見れたのは、幸せかもね?」なんて顔をしました。



 いかがでしたか?今年は、冬がとても寒かっただけに、春の訪れは、とても待ち遠しいものですね。そして、春を待ちわびていたのは、ヒトだけではなく、
草や花、そして虫たちも同様であろうと、思います。ぜひ、時間があれば、川の土手で、風の声や草のささやきを聞いてみるのもよいでしょう。
ひょっとして、つくし君や、なずなちゃんが現れるかもしれませんよ?

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