成人式のころ
       
                                          絵と文:都筑信介

                         本文は、フィクションであり、登場人物等の名称は、すべて架空であり、実在しません。

章夫さんは、アンナちゃんと二人暮らし(?)です。
今日は、成人の日、朝からとても良いお天気なので、章夫さんはアンナちゃんと連れてお散歩に出ました。冬にしては、風も少なく
温和な日です。途中で、敦子さんも加わり、トコトコ歩いていくと、市民会館にさしかかりました。



市民会館から出てきたのは、晴れ着姿の二人。その可憐さに、思わず章夫さんと敦子さんの視線が、二人の方に「釘付け」です。
しばらくして、章夫さんはその視線から目をずらすと、敦子さんは、何かを思い出すように、ずっと遠くに去りゆく二人をみつめていました。章夫さんは、何も言わずに、そのまま敦子さんの表情をみていましたが、敦子さんが、静寂を破って、
「あんなころは、よかったわ」と一言。
そうです。敦子さんには、このシーズンならではの思い出がありました。



それは、まだ、敦子さんが成人式を終えたころのことでした。ある日、ポストにある薄い手紙が届いていました。
その中には、たった1枚の便箋に、短い文がしたためられていました。
「近々、結婚することになりました。ご連絡まで、」
文は、たったの一行で、そのあとを書こうと、ためらった様子もなく、便箋の途中で、一滴のインクを落とした影もなく、
終わっていました。
敦子さんは、この人としばらく楽しい時をすごしたのですが、些細なことで、「口けんか」となり、しばらく連絡が途絶えていました。
しかし、このことが脳裏の中から抜けたことはなく、「そろそろ、連絡をしないと、、」と思っていた矢先のことでした。
それだけに、こんな手紙が、何の予告もなく、まるで落ち葉が落ちてきたように、ポロッと自分に届いたことは、とても悲しくショックなことでした。
敦子さんは、すぐ、返事を書きました。
「ほんのささいな出来事で、話さなくなって、半年あまり。
結婚するって、ほんとうですか?
あなたに寄り添うその人は、どんな人?
おいしい朝ごはん作ってくれる人?
ほんとうにあなたのことを考えてくれる人?
もうすぐ、あなたは遠いひとになってしまうのですね?」
そして、思いを込めて、「あなたのなかに、できることなら、もどりたい!」と最後に書いて、ポストに投函してきました。



敦子さんは、待ちました。毎日、夕日を見ながら、「きっと、、」という思いで。
まだ、冷たい夕暮れ時の風に、自分のおもいを届けてもらおうと、そっと祈る日々が続きました。
でも、何日たっても、なんの連絡もありませんでした。
ただ、そこにあるのは、「そよ風」だけ。



「そうか、そんなことがあったんだ。人生には、いろんなページがあるからね。でも、、」
「でも?」
「そういう、ひとの気持ちを大事にできない相手だということも、わかったわけで、その人と別れたことはよかったかもしれないぞ?」
「ほんとうに、敦子さんのことがいとしいと思ったら、返事くらい書くだろう?」
「そうかな?」
「まだ、若いんだし、もっといい出会いがあると思って、生きたらいい。ちゃんと、見てる人は見てるよ、」
「そうかな?ははは」


  いかがでしたか?みなさんの、ライブラリーのなかにも、このような思い出はありますか?
いくつになっても、ひとの気持ちがわかるような人でいたいですね。そして、自分にとって一番いとしく大切なものは、意外に身近なところにあることをお忘れなく。

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