移りゆく年

                                           絵と文 :都筑信介

                              (注:本作品はフィクションであり、登場人物等の名称は、全て仮名で実在しません。)


 章夫さんはアンナちゃんと二人暮らし(?)です。クリスマスも終わり、北風が肌に染み入る季節です。章夫さんは、そんなころ、
楽雲寺の西門を、アンナちゃんとお散歩に訪れました。西門の前では、楽雲寺の小僧さんである恵念(けいねん)くんが、昨日の強風でいっぱい落ちた葉を、掃除していました。



「やあ、恵念くん、こんにちは。」というと、恵念くんは、
「はい、章夫さん、ごきげんよう。あすは、本堂のすす払いの日で、和尚様より、章夫さんも、お掃除を手伝っていただけるときいております。」、章夫さんは、「ははは、早耳だね。実は、和尚さんから、人手が足りなくてね、でも、ひとを雇うお金もないから、ぜひ手伝ってくれないか?といわれてね。まあ、僕でできることならと思って、志願したんだよ。」
「ありがとうございます。でも、それでも、人手が足りなくて、1日で終わるかどうか?心配ですよ」
「まあ、何とか、なるんじゃないかな?」と。



次の日、本堂のすす払いをする章夫さんの姿がありました。天井や佛のまわりは、すすやほこりでいっぱいで、これらのすすを落としたあと、一つ一つていねいに拭いてゆくと、あっという間に昼過ぎでした。そんな章夫さんを、みにきた和尚さんは、「やあ、章夫さん、
助かります。大変ですけど、よろしく、おねがいします。」
「そうですよね、あすは、もう、大晦日、もう、除夜の鐘、鳴らさなきゃいけないですもんね?」
「そうなんですよ。毎年たいへんなんです。いつも、ギリギリですよ。ははは、」
そんなことを言って、掃除しているうちに夕暮れとなり、夕食の代わりに「お稲荷さん」をいただいて、帰路についたのでした。

次の日、ようするに、大晦日、夕方に章夫さんが、鐘楼を訪れますと、なんと、螽生寺の尼僧、朧子さんがみえていました。



 「これはこれは、朧子どの、お久しぶりで、」 
「はい、章夫さん、ごきげんよう。実は、今年から、除夜の鐘をここでついて、ともに煩悩を送りださないか?という、和尚さんの申し出がありまして、」
「そうですか?それは、よかった。、」
「人の世は、常に、いろんな欲望やそれにむらがる曲がった心が絶えません。すべてをなくすことはできませんが、1つでも、それが、
今日の鐘で、送りだせればと思います。」
「あの時はこうであったが、今は違う、そしてこれからはこうしよう、と思い、こうやって除夜の鐘の音に、心を共鳴すればよろしいのではないかと存じます。」
「久しぶりに、いいお話ですね。わたしも、1つずつ煩悩を消していこうと思います。
除夜の鐘が鳴りだしました。お経と共に、1つずつ、鳴らされる重い鐘の音。こうやって、1年の煩悩が消えてゆきます。

鐘が終わり、新しい年が始まったころ、章夫さんは、アンナちゃんを連れて、帰路に着きました。お寺をでると、焚火が起こされ、古い
お札や、旧年の書物が人だかりの中、空に上がっていました。そして、そこを離れようとしたとき、なんか、変わった人が、何かをさがすように、こそこそと歩いていく姿が見えました。「あれ、どこかでみた顔だぞう」と



「なんじゃ、あれは?」


  どうでしたか?今年も、あと少しで終わりですね。皆さんも、それぞれ、「あのときは、つい、間違ったことをしてしまった、」
とか、「あのときはこうすべきだった」と、今年1年をふりかえると、いろんな思いがあると思います。そんなことをおもい、
除夜の鐘に共鳴されるとよいと思います。


                            もとに戻る