虹のかなたへ

                                        絵と文  都筑信介

                   (この作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて架空であり、実在しません。)


章夫さんはアンナちゃんと二人暮らし(?)です。
ある夜、ベーカリの敦子さんの電話が鳴りました。敦子さんが出ると、「もしもし、敦子さん、ごめんね、夜に、明日店お休み?」
「ああ、章夫さん、こんばんは。どうしたの?明日は休みだけど~」
「なんとなく、このごろ、パッとしなくて、こんな時、若い時代は車で、どこか遠くへいってみたくてよく走ったものだけど、、
それで、昨日、レンタカーを借りてきた。」
「どこへ行くの?」
「はっきりとは決めていない、虹のかなただ。突然だけど、付き合ってくれないか?」
「アンナちゃんは?」
「もちろん、連れていく。」
「わかった。じゃ、アンナちゃんの御飯はなにか用意しないとね。」



翌朝、早く、章夫さんは車で、ベーカリに敦子さんをむかえに行きました。「突然の呼び出しで、申し訳なかったね。ごめんね。」
「いいの、いいの、特に用事はなかったから、アンナちゃんのためにサツマイモを蒸かしたわよ。あと、簡単に、おにぎりを作ったけど、それでいい?」
「いやあ、そんなことまでしてくれて、感謝、感謝だよ~」
その日は、とても、いい天気でした。秋の風が、肌に気持ちよく、空気が澄んで、天は高く、ドライブにはもってこいの気候でした。



虹の向こうへ出かけよう、「今」が通りすぎてゆく前に、流れる風のように、

「虹の向こうには、何があるかな?」
「さあ、わからないわね、アンナちゃんはなにがあると思う?」



「さあ、この辺で、休憩して、お昼にしようか?」
「アンナちゃんは、お芋ね?大好物でしょう?」
「静かだ、聞こえるのは、風の声だけ」
「あ、あそこに見えるのは、赤とんぼじゃない?」
「ほんとだ、気持ちよく風のなかを飛んでいる。虹の向こうは、赤とんぼの楽園か?」
「稲の穂が、ゆったりと、風に揺られているわ~。まるで、大きな船にのって、稲の海を渡っているみたい。」
何も考えず、ゆっくりと過ぎる時間。アンナちゃんも、風のささやきに耳を傾けながら、じーと黄色の田園を見つめています。
今、秋はここにあり、と。

「だいぶ、暗くなってきたね。秋の夕暮れは早いか?そろそろ、帰るか?」
「待って、もう少しすると、月が昇ってくるわ。月の光と、虫の声を聞いてからにしたら。」
暗くなるのは、あっという間でした。まわりが紫色の夕闇につつまれると、地平線から、満月が顔を出し、虫たちの鳴く原野を照らし始めたときでした。



「ねえ、さっきから、アンナちゃんが、じっと見つめているけど、遠くに見えるのは、ひょっとして「うさぎさん」?」
「あ、ほんとだ、ちょうど月がバックになっている。」
「かわいい顔して、こちらをみているわ、なにかお話かけているみたい。アンナちゃん聞こえる?」
「え、こんばんわ、だって」
虹の向こうは「お月様と、うさぎさん」でした。


どうでしたか?昔から、中秋の名月は、うさぎさんが杵とついている姿が映っているようだといいますね。縁側に座り、ススキをいけて、お団子をお供えし、月を眺めようなシチュエーションがあるといいですね。できれば、親しい人や、愛する人が横にいて、そんな場面で語りあえると、なお
いいですが。

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