夏祭り  
 
                                                 絵と文 都筑信介
      
       (本作品はフィクションであり、登場人物、地名、店名等の名称等は全て仮名で、実在しません。)

章夫さんは、アンナちゃんと、二人暮らし(?)です。きょうは、近くの商店街の夏祭りの日です。「アンナ、今日はお祭りだぞう、ちょっと夕方、散歩がてら、見に行ってこようか?」すると、アンナは右手をあげて「クイン、クイン」といいながら、まるで、「誰かとご一緒に!」
と言っているようなしぐさをするではありませんか?「ああ、アンナちゃんのお気に入りの人、ひょっとして敦子さんのこと?」
「敦子さん」と聞いたら、アンナは、すぐ「ワン!」と。 どうも、「人間語」はしゃべれないけれど、意味はわかってるみたいです。
そこで、章夫さんは、敦子さんのお店に電話をしてみました。午後5時40分ぐらいでしょうか?「ああ、敦子さん、今日はお店は何時まで?」 「章夫さんね、今日はお祭りだから、早い店じまいよ。6時終了。」 「そうか、今日はお祭りだね。それで、アンナもなんとなくわかってるみたいで、敦子さん、一緒にいかないかっていってるよ。」「ははは、アンナちゃんそういってるの?テレパシーでも通じたのかしらね。実は、わたしも、だれかを誘おうと思ってたところなのよ、いくいく、!」


真っ赤な夕日が、西の空に落ち、周りがうっすらと暗くなるころ、駅前から公園に続く一本道は、もう、いろんな屋台の出店で、いっぱいでした。どれも、夜を彩るきれいなものばかりで、ときどき吹くそよ風に吹かれながら、そこを歩くと、まるで、「天の川」を船に乗って眺めているような光景です。「どれも、きれいね。昔こどものころに見たものと変わらないわ、まるで、時が止まったようね?」
「そうだな、こうやって、ゆっくり歩いているとほんとにそう感じる」 。アンナちゃんも、いろいろ見て、「見物」といった感じです。



「ねえ、見て、金魚すくいよ。これを見るのは久しぶりだわ。子供のころ、よくやったわ。なかなか、うまくとれなくてね、となりの誰かさんは、5匹もとったのに、まだかみの網が破けないの。」「そうだなあ、うまい子はうまいんだ。」
「ねえ、アンナがさっきから、、じっと見てるけど、あれ、猫田さんじゃないの?」「ほんとだ、まるで三毛猫みたいなシャツ着てるぞ。そして、眼は、まるで、金魚にいたずらしそうな目だ。」

「ちょっと、この辺で、休憩して、かき氷でも食べようか?」「うん、わたしも、かき氷、食べる。」



章夫さんが、代金を払おうとして、札入れを出した時、1枚の紙が落ちました。「あ! 何か落ちたわよ。」
敦子さんが拾って、それを見たら、「章夫さん、これ何?ずいぶん前の電車の特急券みたいだけど。えーと
飛鳥日本鉄道、昭和52年?えー、約40年前よ。」
「はは、ばれちゃったか?じつは、これ、僕が大学生のころ、デートのために買ったんだ。高校のころ、思いを寄せた娘(こ)がいてね。大学に入ったら、なんとか、連絡がついてね、はじめは、一緒に、秋のブドウ狩りにいく予定だったんだけど、、、」
「行かなかったの?」と敦子さんが、章夫さんのほうをみると、「その、当日、彼女は駅に来なかったんだ。」
「結局、はじめから来る気がなかったのかな?と、思ったけど、その時は、けっこうショックだった。来なかったということよりも、自分が高校生のころ、普通に話していた娘(こ)が、こういうふうに変わってしまうんだ、ということのほうがショッキングだったね。」
「わたしなら、いくら若い時でも、そんなことはできないわ。」と敦子さん。
「さあ、かき氷食べないと!溶けちゃうぞ、」「わたし、イチゴ!ははは」
この日は、時がゆったり過ぎるのでした。


どうでしたか?みなさんにも、似たような思い出はありますか?たまに、会った昔の友人が昔のままでいたら、それはとても素晴らしいことかもしれませんね。


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