バッタの話

                                     絵と文  都筑 信介
  
        (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称等は全て仮名で、実在しません。)

章夫(あきお)さんは、犬のアンナちゃんと二人暮らし(?)です。
ある、夕方のこと、「アンナちゃん? 夕御飯は何にしようねえ?」と考えていると、何か庭のほうで、子供たちが騒ぐ声がします。
子供たちは、どうも、声からすると5~6人のようで、「いるいる、いっぱいいる!あ、家の方へとんでいったぞ、それ~」などと、庭のなかを走っているようです。


章夫さんは、「なんか、あったのかな~、アンナ、一足先に行って、みてきておくれ!」
といって、アンナを、庭のレースのカーテンをまくって、直接、庭に走らせました。
アンナが庭に出たと思ったら、「あ、犬がでてきたぞ、やばいぞ、にげろ!」「早く、早く、ぐずぐずしてると、噛まれるぞ~」
という、子供たちの声。いっせいに走る子供たちの足の音がし始めたか?と思ったそのとき、
「あ、ドタッと」、という、一人の男の子の声と音。



どうも、一人の男の子だけ、転んでしまって、逃げ遅れてしまったようです。はじめは、この子は、泣きそうな顔をして、
「こりゃ~、たいへんなことになった」と思っていましたが、アンナが嚙みつこうとしたり、吠えるのではなく、
「ク~、ク~」と心配そうに、子供に語りかけるような素振りをするので、子供は少し安心した様子でした。
それは、あたかも、「大丈夫?痛くない?」と犬語でしゃべっているようでした。



アンナは、目の前にくると、予想していたよりも大きく、はじめは男の子は、すこしびくびくしていましたが、アンナがやさしい表情で、
にこにこにているので、「おまえ、おりこうさんだな~。ヒトとお話ができるのか?」と、声をかけたら、アンナは、笑って首を左に傾かせました。「え、なに、どこからきたのかって?」「この先の小学校のほうからきたんだよ。ぼくんちは、八百屋なんだ。」
アンナは、子供の話に「ふんふん」と笑いながら、聞き入ってるようでした。そして、今度は、右手(足?)をすこしあげて、くるくると回しました。それは、あたかも、「ここで、なにしてたの~」といっているようでした。男の子は、それがわかったらしく、「すごいな、ほんとうに、ヒトとお話できるんだ。実はね、この庭には、大きいバッタがいっぱいいるって聞いたから、、、・・捕まえにきたんだ。」
アンナは、それを聞いて、「ほーか、ほーか」といって微笑んでいるようでした。



そんな、やりとりをしているうちに、奥から、のしのしと亀でもでてくるかのように、章夫さんがやってきました。
子供は、名を「みつる」といって、諸事情を「かくかく、しかじか」だと、章夫さんに話すと、「そうか、そうか、転んだときに足を擦りむいたようだから、なかで、消毒して、テープをはってゆきなさい。」
「おじさん、怒らないの?」、と、みつる君が聞くと、「正直に話をしたから、怒らないよ。実は、おじさんも、子供のころ、垣根をよじ登って、ドングリを拾いにいって、ころんで、ケガしたことがあってね、その時、正直に話をしたら、そのとき、あるおじいさんは、危ないことはしちゃいかんぞ! といったけど、怒らなかったからなあ。」
「3丁目の八百屋さんだろ、うちの電話番号をしってるかい?」
「簡単だから、覚えてるよ、648-7171」
「なんで、かんたんなの?」
「だって、虫歯無い無い、む6し4歯8 ないない7171 だから」
「ふ~ん、それはおもしろい。」
「すぐに、暗くなるぞ、電話して、あとで、うちの人に迎えにきてもらうから、お団子でも食べて、ゆっくりしてゆきなさい。」



その夜は、満月でした。「ほーら、まんまるのお月さまがでてきたぞ~、みえる?」
そんな、話をして、アンナちゃんが、お話できるという話題に。そこには、童心にかえった章夫さんがありました。



ところで、みつるくんたちに、つかまらなかった、「ショウリョウバッタ」は、その夜、子供たちは帰ったかな?とそっと、庭をのぞいてみました。そこには、お母さんにてをひかれて、帰るみつるくんの姿がありました。「やれやれ」。


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