春のある日
                                   絵と文     都筑信介


       (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称等は全て仮名で、実在しません。)


章夫(あきお)さんは、犬のアンナちゃんと二人暮らし(?)です。ある春の日、陽気がよくなったので、「アンナ、お散歩に行こうか?」と、身軽な普段着で、家から、歩き出しました。とても、いいお天気で、近くの小学校の桜が見事に咲いていましたので、ふと見とれていると、「やあやあ、章夫さんじゃないですか?」という声が、まるで屋根から舞い降りたように、横から聞こえてくるではありませんか?振り向くと、そこには髭(ひげ)をはやした猫田さんが、猫の餌でもいっぱい詰めてあるんじゃないか?と思えるような、大きな皮の鞄(かばん)をもって、こちらをニヤニヤとみているではありませんか。「やあ、猫田さん、お久しぶり、お元気?」と返事をしながら、その顔をみると、思わず「あいかわらず、猫みたいな顔だなあ、髭も猫みたいだ。」と言ってしまいそうです。猫田さんの方も、アンナちゃんを気にしているのか、一定の距離を保ちながら、「それでは」などと言いながら、逃げるように、校舎の裏側へと、すたすたと二本足(?)で姿を消しました。章夫さんは、「やっぱり、あの人の祖先は猫かなあ、」などど、アンナちゃんと笑って小学校をあとにしました。



しばらく行くと、線路があって、踏切に続いています。そして、最近見たこともない大きな蒸気機関車が、もくもくと煙を出しながら、止まっているではありませんか。「アンナ、こんなところに線路なんかあったっけ?」それに、蒸気機関車をみるのも、子供のとき以来だぞう?といいながら、春のさわやかな風に吹かれながら、踏切を後にしました。



しばらく行くと、商店街に着きました。「アンナ、いろんなお店があるねえ~、和菓子のお店があるぞ~、草餅がおいしそうだぞ。」と言って、店の入り口まで行くと、「アンナ、和菓子屋のご主人は、まるでブルドックみたいだ。」おもしろいなあ~と思っていたら、「今日は、大根が安いわよ、買ってかない?」と、やお屋の女将さんの声がした、と思って振り向いたら、おかみさんも犬の顔をしている~。「え~、アンナ、こんな商店街きたことないなあ?なんか変だぞ?」と言いながら、さらに歩いていくと、



駅の入り口に出ました。「まあ、かわいいワンちゃんだわ~」と女子高校生の集団が、アンナを見て、みんな笑っている。アンナちゃんも、とてもごきげんそう。でも、よくみると、駅の切符売りのおねえさんは、2人とも犬だし、花屋の従業員さんも、これまた犬で、変なところに舞い込んだ。いったい、どうなってるんだ~、ここはどこなんだ~、と思った時です。なにか、左手を舐められているような感じで、「こそべったいなあ~」と、思ったら、



自分はソファで、毛布かけたまま寝ていて、アンナが、左手を舐めていました。「ああ、夢だったんだ~」でも、アンナちゃんは、にこにこして、まるで「どう?楽しかった?」と聞いているような顔をして、こちらを見ていました。ひょっとしたら、これは、アンナがゆめの国に連れて行ってくれたのかな~?と。やれやれ、寝てしまった、さあ、アンナ、「夕御飯は何にしようねえ~」と。

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